インタビュー「重大な他害行為を行った精神障害者の治療」第3回 国立精神・神経医療研究センター病院・第2精神診療部長:平林直次医師

重大な事件を犯した精神障害者~平均2年7カ月で退院に被害者・家族は納得できる?

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家族間の事件を起こした患者に多い

―― 一般の精神障害者は、むしろ人を傷つけたりしない繊細で静かな方が多いですから、そういう人たちにとっても、人を傷つける病気だと思われてしまうことは本意ではないと思います。それでも医療観察法病棟にいる人たちの治療に携わっていると、他害行為は病気がさせてしまったのだと感じることが多いのでしょうか?

 確かに精神科医療全体のなかでも、事件を起こして入院する方というのは1%未満ですから、非常にまれだと思います。

 医療観察法病棟の対象者には、まず家族間の事件が多い。そのような背景を踏まえて<治療を提供する>ということになります。入院して治療を受けると、次第に事件に対する自覚が芽生えます。そのような人が一般の刑務所で服役しても病気のことや治療の必要性を理解できず、出所と同時に病気を再発させ不安定になることも少なくありません。

 やはり、長期的に視点で考えれば、必要なのは医療であり治療だということになるのです。

――治療を通じて本人も罪を自覚できるようになるのでしょうか?

 まず、責任能力がない場合は「犯罪」ではなく「他害行為」と呼びます。先ほどのように、医療観察法病棟の患者には家庭内での事件が多い。たとえば、父親を殺害したケースでは、母親は加害者の親であり被害者の妻です。

 非常に難しい家族関係ですね。しかし、治療が進むにつれて本人も自分の犯した行為を悔いて墓参りをしたい――という思いに変わることが多くあります。そのような場合は入院中に、父親の気持ちを考えたり、事件に対する気持ちの整理をしたりして、医療従事者が同行して墓参することがよくあります。

 そして、残された遺族・母親は「退院後が不安」だと言います。ですが、社会復帰の前に「本人が自ら病気をコントロールできるように治療しましょう」と説明すると、結果的に本人を受け入れてくれるケースが多い。

 「責任能力がない」加害者・患者は、精神障害の中でも極めて特殊な「触法精神障害者」です。「もう誰も自分を受け入れてくれないのではないか」という孤立感を持っています。そのような人たちと一緒に前進していく仕事に、私はやりがいを感じています。

 医療観察法病棟に対する社会の理解は難しい――障害者を隔離した社会を目指すのか、それとも共生していくのか、という命題を解決する方途のひとつとして、医療観察法病棟は不可欠ではないでしょうか。
(取材・文=里中高志)


平林直次(ひらばやし なおつぐ)
国立精神・神経医療研究センター 病院・第2精神診療部長
1986年東京医科大学医学部卒。東京医科大学精神医学教室、国立精神・神経センター武蔵病院精神科、ロンドン大学司法精神医学研修を経て、2010年より現職。2010年より同精神リハビリテーション部長、2015年同認知行動療法センター臨床診療部長併任。専門は司法精神医学。

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