言語記憶力は女性のほうが優れている!?
夫が妻に「おまえ、そんな昔の細かなことよくおぼえているな」というあまりにもありきたりの会話に始まり、喧嘩となると「どうでもいい昔の記憶」をもちだされて夫はあえなく降参となる。年をとればとるほど口喧嘩では妻に勝てなくなってくる。やっぱり、女性のほうが記憶力がいいのではないか?
ここに興味深いひとつの研究がある。
米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のErin Sundermann氏らの研究では、高齢女性では男性よりも言語記憶が維持される傾向があり、そのためアルツハイマー病の早期診断は女性のほうが難しい可能性があるとしている。
この研究は、同氏が米アルベルト・アインシュタイン医学校(ニューヨーク市)にいるときに実施され、「Neurology」オンライン版に2016年10月5日掲載された。
対象は平均年齢73歳の1300人超。被験者のうち約250人はアルツハイマー病、670人は記憶障害などを含む軽度認知障害(MCI)があり、390人には思考や記憶の障害はみられなかった。被験者には全員、15個の単語を見た直後と30分後に思い出す言語記憶テストを受けてもらった。
さらに脳PET検査も実施し、被験者の脳におけるグルコース(糖)代謝を測定した。脳の糖代謝障害は、アルツハイマー病の特徴としてよく用いられるという。
その結果、糖代謝障害が同程度であっても、女性の言語記憶力は男性よりも優れている傾向があることがわかった。
Sundermann氏はこの知見について、「性差に基づき、アルツハイマー病の記憶テストを調整する必要があることが示唆された。アルツハイマー病やMCIでは診断に言語記憶テストを使用するため、女性の診断の遅れにつながる可能性がある」と説明している。
この結果は、疾患が大きく進行するまでは、女性のほうが「認知的予備力」を用いて脳の潜在的な変化を補っているためだと考えられるという。
さて、記憶力の性差はあるのだろうか? 確かに男性と女性では記憶の形態や保存のされ方が違うようにも感じるが、明確には説明されてはいない。
一説によると女性の脳は、男性に比べて、脳の中の脳梁の前にある<全交連>という部分が太くなっているため、脳全体で思考したり言語活動をする傾向があるという。この<全交連>は感情を司る扁桃体と神経がつながっているので、より感情的になりやすいという。
つまり、一つ一つの記憶に感情情報が入っているため、より記憶が鮮明になるという理屈だ。人間は物事を記憶する際、感情が入ると覚えやすくなる。なので、全交連が太く感情が入りやすい女性の方が過去の出来事をよく覚えているというのだ。
『R&D Around50レポート2017』で浮き彫りとなったアラフィフ女性の記憶力の衰えに対する敏感さは、そもそも女性の記憶が感情に裏打ちされているためにその喪失にも、感情が動きやすいのかもしれない。
人間の脳はまだまだわからないことだらけだ。
(文=編集部)