注意したい向精神薬、催眠薬の大量・長期間の処方
このケースのように大量の向精神薬、催眠薬を服用し、その後長時間に渡って昏睡状態で放置され、低体温状態にさらされれば当然のことながら生命の危険がある。
海や山での遭難、溺水事故、あるいは泥酔状態で寒冷下の野外に身を置くなどの状態にて発症する<偶発性低体温>と同じように生死をさまようことになる。
特に体温が30℃以下に低下すると、呼吸抑制、重篤な不整脈、脳の酸素消費量不足、腎臓、肝臓など諸臓器への血流低下が出現し、また肺炎などの感染症も併発し、生命の危険度は非常に高くなる。一刻の猶予はならず、早期の集中治療が必要である。
適切な酸素療法、輸液による体内水分管理、呼吸管理などに努め、体温上昇させる復温(電気毛布、赤外線ヒーター、ウオームマット、温浴などによる治療)処置が必須である。また本症例のように、急性腎不全を併発した際には、血液透析療法が必要な時もある。
精神科に外来通院している患者さんの服薬管理は非常に難しい問題である。
患者さんは、処方された薬を貯め込んで、一度に大量服用して、自殺企図することが多く認められる。独居者、若年者では特に危険性が大である。
精神科医はこれらの「ハイリスク患者さん」の見極めが必要で、向精神薬、催眠薬の一度に大量・長期間の処方を控えること、また何度も大量服用した患者さんに対しては、入院治療を行うなどの、きめ細かな対応が是非とも必要になるのである。