退院後を見据えて入院中から比較的自由に過ごす
刑務所は<刑罰のための施設>ですが、医療観察法病棟は<治療のための施設>です。そのように考えた場合、退院後を見据えた体験をしておくことも必要なのです。
たとえば、入院中にいくらゲームを禁止しても、退院してから一日中ゲームに興じれば、病気を再発しやすくなります。そのため、入院中から比較的自由に過ごし、社会復帰後の生活を考えてもらう目的があります。
――入院中の外出は可能ですか?
医療観察法病棟は、閉鎖されており、施錠されています。治療が進めば、スタッフが2名~3名ほど付き添い外出外泊も行っています。まずは近くのスーパーで買い物したりしながら、金銭の管理などの練習も行います。
退院から3年後の再犯は1.8%
――退院はどのように決定するのでしょうか?
「保護観察所」に勤める社会復帰調整官や、退院後に通院する医療機関のスタッフ、市役所の担当者、保健所の保健師などが集まり退院後の生活や、病状が悪化した場合の計画を立て、本人がある程度その計画を理解したところで、裁判所に退院の申立てをします。
裁判所はそれを受けて裁判官と精神科医の2名で、まず書類での審査をします。さらに本人を法廷に呼んで、病気に対する説明を求めたり、事件の被害者に対しての気持ちや退院したあとの生活について確認します。その上で裁判官と精神科医が退院の正式な許可を下します。
――退院後の生活はどのようなものなのでしょうか?
基本的には週に1回通院し、週に1回訪問看護があります。それに加えて病院でのデイケアに通っている場合もあります。週の半分以上を社会復帰調整官や医療関係者に会いながら生活する人が多いです。
保護観察の期間は原則3年とされています。保護的就労を除いた一般就労についている人は、退院後の通院期間が終わった段階では約17%です。生活保護を受けたり、障害年金をもらう人も多くいます。
――治療の結果、再他害行為は少なくなっているのでしょうか?
退院後の再他害行為は、今年(2017年)のデータで<3年後に1.8%>と推定されています。これは海外と比較しても低い数値で、医療観察法が始まる前と比べてもかなり下がっていると考えられています。
(取材・文=里中高志)
平林直次(ひらばやし なおつぐ)
国立精神・神経医療研究センター 病院・第2精神診療部長
1986年東京医科大学医学部卒。東京医科大学精神医学教室、国立精神・神経センター武蔵病院精神科、ロンドン大学司法精神医学研修を経て、2010年より現職。2010年より同精神リハビリテーション部長、2015年同認知行動療法センター臨床診療部長併任。専門は司法精神医学。
里中高志(さとなか・たかし)
精神保健福祉士。フリージャーナリスト。1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉ジャーナリストとして『サイゾー』『新潮45』などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に精神障害者の就労の現状をルポした『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。