<危険な病院>の見分け方
だが、期せずして被害者となり、医療訴訟を起こして争う事態に陥った場合、被害の立証にはカルテが重要となる。
「裁判所もカルテを重視します。昔は証拠保全を行い、カルテを入手してから調査を始めていました。しかし近年では、被害者がカルテを持参されるので、すぐに相談が始まります。ただし、カルテにはそもそも不都合なことは書かれていないのが常です。患者への観察義務違反を問うにしても、カルテにどこまで記載すべきかは法律の規定が抽象的なので、訴えにくいのです」(谷弁護士)
専門的にカルテを解析し、行間を読むような立証が裁判の要である一方、カルテを見ればその病院の対応力も分かるという。
「カルテが雑な医療機関は、診療レベルも低い。事故が起きたときへの対応も悪いですね。カルテがきちんとしている病院は、それなりの対応をします。カルテを例に挙げても、医療機関の質は二極化の傾向が見られます」(谷弁護士)
では、一般の人が<危険な病院>を見分ける秘訣はあるのだろうか。
「豪華な内装の産婦人科医院などは、注意したほうがいい。ホテルのようなゴージャスな空間とか、医療の本質ではない魅力をアピールしているのは危ない。医療技術の未熟さやレベルの低さを、それでごまかしている可能性もあります」
「日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業では、ヒヤリ・ハットと医療事故事例を収集していますが、報告義務がある医療機関は1400程度。医療事故の実態とは乖離があるかもしれません」(谷弁護士)
日本医療機能評価機構が昨年末に発表した「医療事故情報収集等事業」の第47回報告書によると、2016年7~9月に報告された医療事故は866件、ヒヤリ・ハット事例は7566件に及ぶ。
医療事故のうち62件(7.2%)で患者が亡くなり、90件(10.4%)は障害が残る可能性が高いことも判明した
ヒヤリ・ハット事例(7566件)は、「薬剤」が最も多く3154件(事例全体の41.7%)、事故の発生要因(複数回答)としては、医療従事者・当事者の「確認の怠り」(25.0%)が飛び抜けて多い。
今回の東大病院の事故も「確認の怠り」、いわゆる「ヒューマンエラー」が原因だ。東大病院は再発防止策として、内服薬をバーコードで管理し、投与前のチェックで誤投与を防ぐシステムの導入を進めるとしている。
(取材・文=野島茂朗)
野島茂朗(のじま しげあき)
ジャーナリスト。週刊誌記者出身で、犯罪研究家や詐欺研究家などの肩書でコメンテーターとしてもメディアで活躍。