揚げ物や焦げた食品には少し注意が……(http://jp.depositphotos.com)
「アクリルアミド」という名前を聞いたことがあるだろうか。その正体は「加熱調理で生じる化学物質」で、発がん性の疑いがある。どんなものに多く含まれ、どんなことに気をつければよいのか?
まずはアクリルアミド発見のいきさつから紹介しよう。
工事現場の健康被害調査から見つかった
アクリルアミドは遺伝毒性や発がん性のある化学物質だ。しかし、農薬や食品添加物のように、人為的に食品に加えるものではない。だから、食品とアクリルアミドが結びつくと考える者はいなかった。そのため長年の間、食品中のアクリルアミドを検査することもなかった。
ところが2002年4月、スウェーデン政府が驚きの研究結果を発表した。ストックホルム大学と共同で行った研究で、じゃがいもなど炭水化物を多く含む食品を高温で加熱すると、食品中にアクリルアミドが生成されるというのだ。
工業用の有害な化学物質が、加熱調理した食品に含まれるという意外な事実に、世界中の人々が衝撃を受けた。
発見のきっかけは、建設工事で使用したアクリルアミドによる健康被害調査である。アクリルアミドに接していないことが確実な人に、体内からアクリルアミドの代謝物が見つかったのだ。そこでいろいろな食品を調べたところ、加熱調理で生じることが明らかになった。
その後さらに研究を重ね、さまざまな加工食品がアクリルアミドを含むことがわかった。
2002年6月のFAO(国際連合食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)による合同専門家会議は、食品中のアクリルアミドが健康へ重要な影響を及ぼすと指摘した。しかし、健康への影響評価までには、さらなるデータ収集が必要であった。
アクリルアミドの発がん性は?
アクリルアミドは日本では劇物に指定され、紙力増強剤、繊維加工、土壌改良剤、接着剤、塗料などの原料になる。仕事などで日々、アクリルアミドを扱うと、眼、皮膚、気道が刺激される可能性があり、長期的には神経系への影響や発がん性、遺伝子損傷が懸念される。
食品中のアクリルアミドについては、人の健康にどう影響するかまだはっきりとは解明されていない。しかし、極めて高用量のアクリルアミドを投与した動物実験では、明らかに発がん性を示した。
したがって、人に対しても発がん性があると考えるのが妥当だ。国際がん研究機関は、アクリルアミドを、人に対して「おそらく発がん性があるもの」に分類している。
しかし、現実の食生活で摂取するアクリルアミドは、極めてわずかな量に限られる。発がん性と量との関連については、現在、日本、米国、欧州などで調査研究を進めているところである。