女性歯科医師の復職支援を!
また歯科医師の男女の性差も考慮が必要だ。女性歯科医師は男性歯科医師より勤務日数、時間共に短い傾向がある。特に女性歯科医師は30~39歳からこの傾向が顕著に現れ、その後の勤務時間はさらに減少していく。歯科の特徴として一度臨床の現場から離れると復帰が難しい。だが、女性歯科医師のための復職支援の制度などは皆無だ。
各大学の入学者の女性の割合は増加している。昭和56~60年の女性の入学者率は18.6%だったが、平成26年には41.6%と年々増加し、それに伴い女性歯科医師も年々増加している。現在はおよそ4人に1人が女性歯科医師だ。女性歯科医師に対する復業支援策を打ち出さなければ、働くことが出来ない女性歯科医師が増え、実際に働く歯科医師は減少する。
以上により、筆者はこれ以上の歯科医師数抑制に反対である。まずすべきこと偏在の解消だ。特に東京への歯科医師の流入を防がなければ全体が変わらない。でないと都心では経済的に困窮した歯科医師の過剰医療が蔓延し、地方では患者が溢れ杜撰な治療になってしまう。いずれにしても一番被害を被るのは国民だ。
そうならないための参考として、福島県南相馬市の例がある。南相馬市は元々医師不足地域だったが震災後さらに減少した。同市立総合病院などでは、12人いた常勤医はたったの4人になってしまった。だが昨年はその8倍の32人もの医師が勤務医として働いている。
これは自然にそうなったのではない。震災後の報道により注目を集めたことや、震災による調査項目が増えたこともあるが、何よりも官民挙げて医師を積極的に受け入れる体制を築いたことによるところが大きい。
市立病院で勤務している森田知宏医師は20代の新進気鋭な内科医だ。彼は震災後で課題が多いにもかかわらず、人材が少ないので一人ひとりの活躍できる場があり、やりがいを感じると言う。また同じく市立病院で研修医をしている山本佳奈医師はこの方策の結果、若手医師への教育が強化され、魅力ある職場環境やキャリアアップの機会が増えたと言う。これらは医師の話であるが歯科医師も参考にすべきだ。
都心に歯科医が集まっているのは地方都市に歯科医を受け入れる体制が整っていないためだ。歯科医師の分散には歯科医師にとって魅力ある地域づくりが必要となる。引いてはそれが住民の口腔の健康にもつながる。幸い日本には地方色豊かな地域が多く残っている。各地方自治体は積極的な歯科医師支援策を打ち出すことが偏在解消の第一歩である。歯科医師削減はそれからでも遅くはない。
医療法人社団SGH会すなまち北歯科クリニック
橋村威慶
「MRIC」2017年1月16日より抜粋 全文はこちら