日本国内のファシリティドッグはまだ2頭のみ(shutterstock.com)
「ファシリティドッグ」を知っているだろうか? 病院で患者たちと触れ合い、精神的なケアと癒しをもたらしつつ、動物介在療法をサポートする犬、それがファシリティドッグ。動物介在療法は、医療の現場で専門的な治療行為として行われる動物を介した補助療法だ。
ファシリティは「施設」「機関」の意味。犬ならではの、人間への愛着性、親和性、誠実性に着目して活用されている。現在、動物介在療法に常勤で関わっているファシリティドッグは、日本に2頭。「ベイリー」と「ヨギ」だけだ。
動物介在療法に携わるファシリティドッグの貢献力
さまざまな施設を訪問するセラピードッグとの違いは何だろう? 認定NPO法人シャイン・オン・キッズのプログラムコーディネーター村田夏子さん(農学博士)によると、違いは4つある――。
第1に、セラピードッグは常勤でないが、ファシリティドッグは1つの病院に毎日出勤するフルタイムワーカー。
第2に、セラピードッグは基本的な躾を受けた家庭犬だが、ファシリティドッグは専門的なトレーニングを受けた使役犬だ。
第3に、セラピードッグのハンドラー(犬をコントロールする人)は飼い主だが、ファシリティドッグのハンドラーはファシリティドッグとともに専門的なトレーニングを受けた看護師や臨床心理士などの医療従事者。
第4に、セラピードッグの役割は人を癒す動物介在活動だが、ファシリティドッグの役割は医療行為に関わる動物介在療法だ。
このように、ファシリティドッグは、セラピードッグと明らかに違う医療スタッフなのだ。
日本初のファシリティドッグになったベイリー(オス)は、オーストラリア生まれのゴールデン・レトリーバー。ハワイの専門施設「Assistance Dogs of Hawaii」でトレーニングを受け、2010年1月から2年半、静岡県立こども病院に勤務後、2012年7月からは神奈川県立こども医療センターで活躍している。2頭目のファシリティドッグのヨギ(オス)は、ベイリーと同様にハワイで訓練を受け、2012年からベイリーの後釜として静岡県立こども病院に勤務している。
子ども・親・病院のスタッフにとって、かけがえのない頼れる存在に
神奈川県立こども医療センターの廊下を青いハーネスを着けたベイリーがトコトコトコと歩いている。その姿に気づいた子どもや親たちが、「ベイリーだ!」「かわいい!」と近づいてくる。触れられて満足そうにじっとしたまま白いシッポを揺らしているベイリー。病院の中に犬がいるのは、何か不思議な光景だ。
ベイリーの主な仕事は、入院病棟を歩き回り、子どもたちに触ってもらって仲良くなり、絆を強めることだ。薬を飲むのが苦手な子どもを励ます、リハビリに同行する、散歩に行く。採血や点滴の時も手術の時も、「ベイリーについてきてほしい!」と求める子どもが多い。ベイリーの活動エリアは、単なる癒しではなく、医療の分野に大きく踏み込んでいるのだ。