映画『ミクロの決死圏』の世界が現実に!? 最先端のナノ医療で「がん細胞」を撃退

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最終ゴールは診断と治療の両方をこなす薬剤開発の実用化

 このように、体内病院というナノ医療テクノロジーは、実に先駆的な戦略だ。だが、抗がん剤を内包した高分子ミセルによるDDSは、究極のスマートナノマシンを実現する第1ステップにすぎない。診断と治療の両方をこなす薬剤の開発が最終ゴールだからだ。

 今年5月、iCONM(アイコン)は、東京工業大学、量子科学技術研究開発機構と連携し、がんの悪性度を可視化するナノマシン造影剤を開発した。

 ナノマシン造影剤とは何だろう? がん組織の治療抵抗性に関係があるらしい。

 がん組織内部の低酸素領域は、抗がん剤が届きにくく、放射線治療の効果も低いので、がんが悪性化しやすく、転移しやすいなど、がんの治療抵抗性が極めて強いという特性がある。このようなハンディを克服するべく開発されたのが、ナノマシン造影剤だ。がん組織内部の低酸素領域をMRI(核磁気共鳴画像法)によって高感度に検知するナノマシン造影剤は、がん組織の病態を鮮明にイメージング(可視化)できるので、適確な病理診断につながる大きなメリットがある。

 つまり、ナノマシン造影剤は、MRI造影効果を持つマンガン造影剤と生体に安全なリン酸カルシウムを合成していることから、がん組織内部のPHの低い環境(PH6.5~6.7)に応答して溶解しやすくなる。

 したがって、ナノマシン造影剤は、血流中の環境(pH7.4)では安定しているが、がん組織内部の低いPHに応じて、ナノ粒子からマンガン造影剤を放出できる。放出されたマンガン造影剤は、がん組織のタンパク質と結合すると、MRIの強度を約7倍に増幅するため、がん組織を高感度に検出できるのだ。

 しかも、ナノマシン造影剤は、生体検査で広く利用されている造影剤と比べて低侵襲なので、体内のあらゆる臓器や組織に適用できるだけでなく、イメージング(可視化)による病理診断技術としての実用化が大いに期待されている。実にスマート(賢い)なシステムではないか!

小惑星探査機「はやぶさ」のようなスマートナノマシンも出現か?

 しかし、体内病院は、もっと先を見ている。ナノマシン造影剤によって抗がん剤をがんの患部に届ける(delivery)のではなく、その場で創る(in situ drug production/イン・サイチュ・ドラッグ・プロダクション)研究も進められているからだ。

 たとえば、細胞内の遺伝子に光を当て、遺伝子の機能をコントロールしてタンパク質を創る技術が開発されれば、がん組織やその周辺で抗がん剤を合成できることから、まさにリアルタイムながん治療が可能になるだろう。

 報道によるとアルツハイマー病やパーキンソン病などの難治性疾患にも適用を広げる計画もあるという。脳の血液脳関門は、異物を侵入させないため、薬剤が届きにくい。だが、ポリオウイルスが血液脳関門を難なくかいくぐって脳に侵入するメカニズムを活用し、脳神経細胞にまで届く薬剤の開発を狙っているという。

 つまり、スマートナノマシンが体内をくまなく巡りながら、患部の生体情報を収集する→体内に埋め込んだチップが疾患を判断する→疾患の情報を体外へ無線で発信する→スマートナノマシンが治療を完了して、無事帰還する。こんな小惑星探査機「はやぶさ」のようなスマートナノマシンがデビューするのも、決して夢物語ではない。

 スマートナノマシンなら、細胞の上に抗原タンパク質などを自在に並べられるようになる。このような分子の集積技術など、究極のナノテクノロジーに焦点を当てたiCONM(アイコン)は、医療と工学の共同研究の先駆けとして、世界に類のない先見的なプロジェクトだ。「未来の病院は自分の体内にある」といわれるのもうなづける。

 人生、無病息災でありたい。しかし、体内病院が実現すれば、健康で未病でも、スマートナノマシンがパトロールしてくれる。何か異変をキャッチすれば、すぐにシグナルが送られて来る。仮に病気に罹っても、薬が体内で合成され、素早く手を打てる。知らないうちに治療が完了し、元気になっている。こんなスマートライフケア社会がすぐそこまで来ている。
(文=編集部)

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