日本での尊厳死議論はどこまで進んでいる?(shutterstock.com)
シカゴは先週の真夏のような気候から一転し、朝は20度を切る気温で、来週には15度前後まで下がる。木の葉は少し彩りを変え、急速に秋の気配を濃くしつつある。こんな気候でも、オフィスには冷房が入っている状態で、頭がくらくらしてくる。そして、短い秋の後には、また、長い冬が始まる。昨冬のような比較的穏やかな気候であってほしい。寒すぎると加齢現象が早進むような気がしてならない。
自ら尊厳死する道を選択したその理由は?
そして、今日の話題は、オレゴン州で尊厳死法案「The Oregon Death With Dignity act」にもとづく尊厳死の話である。この法案が成立したのは、1997年のことだ。医師が処方した死に至る薬剤を、患者自らが注射することによって、尊厳を保ったまま自らの命を絶つことのできる法案である。他州の患者が、オレゴン州へ移住して尊厳死を迎えたことでも話題になった。
これまで、1545件の処方がなされ、991人がこれらの処方薬によって、自ら尊厳死する道を選択した。処方から死に至る割合は、年間48-82%で推移している。死に至る処方は1997年以降2013年まで平均12%の率で増加していたが、2014年には28%増、2015年には40%となっている。2013年と2015年を比較すると約1.8倍になっているのだが、その理由はよくわかっていない。
991人の罹患していた疾患の内訳は、がんが77%と圧倒的に多く、ALSが8%、肺疾患4.5%、心疾患2.6%、HIV感染症が0.9%と続く。男女比は男性51.4%、女性48.6%とほぼ同数だ。年齢の中央値は71歳で、25歳から102歳と幅がある。97%が白人と出ていたが、オレゴン州の人口構成を知らないので、偏りがあるかどうかはわからない。
90.5%がホスピスの患者さんであり、94%が自宅で息を引き取った。あまり知りたくない数字だが、投与から昏睡にいたる時間は平均5分(1-38分)、投与から死に至る時間は平均25分(1-6240分)とあった。6240分は4日以上なので、看取っている人たちにとってさぞかし苦痛であっただろうと想像してしまう。
尊厳死を選んだ理由として挙げられていたのが、日々の活動を楽しむことができないこと(90%)、自己決定権の喪失(92%)、尊厳を守るため(79%)、体の自由が利かなくなったこと(48%)、痛みのコントロールができなくなったため(25%)、経済的な理由(3%)とあった。
がんによる痛みのコントロールは、以前よりもはるかにうまくできるようになったので、それほど大きな理由にはなっていないようだ。やはり、治る可能性のない病気に罹っていること、それによって、自分が自分らしく生きることができなくなったことが尊厳死を選ぶ最大の理由のようだ。
レポートを読んでいて、段々と気持ちが落ち込むような内容だが、人間としての誇り、尊厳とは何なのか、思わず考え込んでしまった。日本の文化的な背景では、なかなか直視しがたい問題だが、日本人の3人に一人ががんで亡くなる今、医療の現場では避けて通ることのできない重要な問題だと思う。日本の医療の課題については、大きな声をあげた人たちの意見が多数の意見のようにすり替えられることが少なくないが、みんなで冷静に考える土壌が必要だ。
※『中村祐輔のシカゴ便り』(http://yusukenakamura.hatenablog.com/)2016/0915 より転載