「戦後最悪」の犠牲者! 施設殺傷事件の植松聖容疑者が精神病院を「スピード退院」した理由

この記事のキーワード : 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

危ない思考の持ち主を「とめる」には……

 そんな危ない思考の持ち主に対して、「事件を起こす前に入院を」という世論はもっともだ。しかし、現実的には警察沙汰でも起こさないかぎり、入院は難しい。

 というのも、自傷他害の恐れがあるような状態の人間に対して、周囲の人はとっくに近づかなくなっているからである。

 もし、家族や友人、仕事仲間などとの関わりがあれば、もっと早い段階で周囲が「おかしい」と気づき、治療や入院の、何らかの働きかけがあるはずだ。植松容疑者も、2月の段階では在職中だったからこそ、職場が異変に気づき入院の運びとなった。

 ところが、事件発生時は、無職で同居の家族もおらず、社会との関わりが希薄だった。「おかしい」と気づける人が、いなかったのだ。社会的孤立のなかで、妄想症状が悪化していった可能性はある。

 今回の件で、病院の過ちを指摘するなら、退院後の社会的枠組みを築くべきだったことだ。

 今の「精神疾患があっても社会生活を」という潮流の中では、たとえ家族がいなくても、患者を支える公的機関のサポートや社会資源はさまざまにある。

たとえば、保健所や役所の職員の関わり、通院継続、訪問看護の導入、社会復帰施設への通所などだ。

 大多数の患者は、妄想があっても、社会的な枠組みが抑止力となり、妄想を行動化させない。精神疾患があっても、そうそう、何もかもわからなくなったり、別世界に生きるわけではない。

 一般世間に通用しない妄想がありつつも、現実見当識は残っているものだ。

 「こういうアイデアがあるが、主治医にやめとけ、って言われた」「自分はこう思うが、お世話になっている看護師に迷惑はかけたくない」など、周囲の人との関係性の中で、平穏な暮らしを保っている患者が大多数だ。妄想を抱えていても、人間としての社会性を具えている。

 退院時点の植松容疑者の状態にかかわらず、経過観察の必要性から、退院後の地域支援、治療継続に、精神病院はもっとシビアに取り組むべきだった。

入院継続されなかった、もうひとつの理由

 スピード退院のもうひとつ理由は、植松容疑者が無職で、「保護者」となりうる扶養者、つまり家族もいなかったことが考えられる。

 入院当日に退職届を提出していた植松容疑者は、病院側にとっては、入院費用の支払い能力がない患者だ。

 措置入院は公費負担なので、取りっぱぐれの恐れはない。だが、措置入院が切れて、医療保護入院や任意入院に切り替われば、支払いは本人負担となる。同居家族もいない、収入のない植松容疑者は、病院経営にとって「リスキーな患者」だ。

 とはいえ、症状が軽減したら、人権保護の上において種々の制約がある措置入院は解くことになる。

 入院中に生活保護を申請をして、保護費で入院環境を整えることも可能だ。覚せい剤ほどの後遺症の悪影響がない大麻(マリファナ)の使用患者なら、成分が抜けた時点で、医師が「退院でよかろう」という判断する展開は十分にあり得る。

 精神病院によっては、入院患者を「回転させる」ことで収益を稼いでいるところもある。植松容疑者のケースに限らず、無収入の大麻使用患者は手厚い入院や治療を継続する対象とはならなったのかもしれない。
(文=編集部、監修=精神保健福祉士・大田仁美)

バナー1b.jpeg
HIVも予防できる 知っておくべき性感染症の検査と治療&予防法
世界的に増加する性感染症の実態 後編 あおぞらクリニック新橋院内田千秋院長

前編『コロナだけじゃない。世界中で毎年新たに3億7000万人超の性感染症』

毎年世界中で3億7000万人超の感染者があると言われる性感染症。しかも増加の傾向にある。性感染症専門のクリニックとしてその予防、検査、治療に取り組む内田千秋院長にお話を伺った。

nobiletin_amino_plus_bannar_300.jpg
Doctors marche アンダカシー
Doctors marche

あおぞらクリニック新橋院院長。1967年、大阪市…

内田千秋

(医)スターセルアライアンス スタークリニック …

竹島昌栄

ジャーナリスト、一般社団法人日本サプリメント協会…

後藤典子