年間運用成績が5兆円超の大損失!?(shutterstock.com)
厚生労働省所管の「年金積立金管理運用独立行政法人」(Government Pension Investment, GPIF)。思わず舌を噛みそうなこの長ったらしい名称を、最近よく耳にするなという方も少なくないだろう。
そもそも経済用語や細かい数字が頻出する記事は苦手、つい読み飛ばしてしまうという方々もどうかGPIFの略称を脳裡に刻んで、今後の動向にくれぐれも注目してほしい。
なぜならばGPIFは名称どおり、あなたの積立金の“資産運用”を担っている独立行政法人だからだ。GPIFは「厚生年金」と「国民年金」の運用資産約140兆円を抱える世界最大級の年金基金だ。
日本の総人口を1億2700万人として概算すれば、国民1人当たり110万円超、厚労省的標準家庭(夫婦+子ども2人)であれば計440万円超の運用を委ねているわけだ。
そのGPIFの話題が、7月1日の全国紙一面を大きく飾った。2015年度の年間運用成績が5兆円超の「大損失」となることが確定したからだ。
しかし、GPIF側は参院選後の7月29日まで正式な公表を控えるという。それに対して野党は、過去7年間の発表時期の慣例(=7月前半発表)との違いを批判。参院選を前にした安倍政権の「損失隠し」という意向が反映されていると疑われても仕方がない。
安倍政権の「クジラ買い」効果も座礁か
もっとも過去のGPIF(基本ポートフォリオ)の運用実績は、想定外の大損失(サブプライムローン、リーマンショック)以外はおおむね順調だった。
東日本大震災時の損(3000億円弱)を除けば、2011年度は2兆6092億円の利益をはじき出し、2012-2014年度は毎年10兆円を超える順風ぶりをみせていた。
そんな追い風を味方に安倍政権は“株価上昇トレンド”を支える最強兵器として、2014年秋のダボス会議で「GPIFの改革」を海外勢に訴求。帰国後に基本ポートフォリオ(資産構成割合)の目標値を見直し、国内債券の比率を60%から35%に下げ、代わりに株式比率を50%に倍増した。
この世界最大規模の運用資産(1兆2000億ドル)の影響は半端でなく、市場では「プールに“クジラ”を投げ入れたようなもの」という例えも交わされた。
それほどアベノミクスの成長戦略は株価の影響を受けやすくなったわけで、国内外の運用比率を50%に倍増した直後の年末、民進党の長妻昭衆院議員は政府にある質問主意書を提出した。
年金積立金の想定損害額を問うたものだ。政府側は「もし、リーマン・ショック級の株価下落があった場合」の損失額を「26.2兆円にのぼる」と試算して公表した。
ここで5月の伊勢志摩サミットにおいて、参加首脳陣を前に安倍総理自らが世界経済の現況を分析したコトバを思い出してほしい。「リーマン・ショック前の状況に似ている」、消費税再延期の弁明としても聴いた方は少なくないだろう。
つまり、この想定損失額が現実味を帯びてきた危機的状況を総理自身が認めたことに等しいのだ。どんな経済オンチでも「なんだか、ヤバそう……」と感じるほど、今年に入ってから株価は大幅に下落している。
ダメ押しが先日の英国EU離脱の衝撃で、今回の下げ幅から単純計算で2割増しを鑑みれば想定損害額は「30兆円」に届く可能性も否めない。