認知症を支える家族の無償ケア6.2兆円! 介護・医療の社会的コストは年間14.5兆円

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認知症の人を支える無償のケアにもっと注目を dorry/PIXTA(ピクスタ)

 認知症の人の介護や医療などにかかった社会的なコストは、2014年の1年間で約14.5兆円にのぼる―― 。

 5月29日、認知症に関する医療費や介護費、家族が仕事を辞めた損失などを含めた社会的な費用は14兆5000億円にのぼるとの推計を、厚生労働省の研究班が初めて発表した。この費用はGDP(国内総生産)の約3%にあたる。高齢化による認知症の人の増加にともない、2060年には年間24兆3000億円にまで増大すると指摘している。
 
 一方、家族などによる無償の介護などをお金に換算した費用「インフォーマルケアコスト」が、全体の4割を占めていることも判明。「家族介護」の負担の大きさが浮き彫りになった。

 家族などが行う身体介護や家事などのサポートについては、医療機関などを通じ家族らにアンケートを実施。1482人分の回答から要介護度別に介護時間を割り出し、無償の介護を介護保険サービスなどに置き換えたと仮定した費用、介護時間に働いていたらもらえたはずの賃金などを試算した。

 その結果、認知症の要介護者1人あたりの介護時間は平均週約25時間で、費用は年382万円と推計。社会全体では約6.2兆円となった。
 
 分野ごとにみると、「介護費」が6.4兆円で最も大きな割合を占めており、「インフォーマルケアコスト」がそれに近い6.2兆円。「医療費」は1.9兆円だった。今後はそれぞれ増加する見込みで、2060年には全体で約24.3兆円まで膨らむとされている。

認知症の社会的コストへの試算取り組みが遅かった日本

 厚労省によると、認知症の高齢者は2012年の時点で約462万人おり、団塊の世代が一斉に75歳以上となる2025年には約700万人まで増える見通しだ。

 2025年の「超高齢化社会=総介護時代」には、介護を行う主体が子でなく、孫というケースも不思議ではない状況だ。非婚・少子化と超高齢化が同時に進むなかで、独身者が親を介護するという現実を追った『ルポ 介護独身』(新潮新書)の著者・山村基毅氏は、次のように指摘する。

 「認知症の人の介護には、かなりの労力が必要なことが社会的に認知されてきた。症状が進み、四六時中そばにいてケアをすることも限界がある。施設入所を希望しても、うまく"空き"があるとは限らない。今回発表されたインフォーマルケアコスト(年間382万円)は、介護のために"時間"を費やしているかの例証だ。その莫大なケアの最中に起こったであろう、さまざまな苦労や葛藤が想像され、胸の奥をえぐられるような気持ちになった」

 「介護で自分の人生設計をあきらめなければならなくなった人や、貯金が尽きて親の年金を生活の糧にせざるを得なくなった人も少なくない。親の死後も、彼らがかつてのキャリアに復帰することは難しい。社会的な損失を考えれば、無償で支えてきたインフォーマルケアが初めて推計されたのは遅すぎるくらい」

 すでにイギリスやアメリカなどの先進国では、認知症にかかる社会的なコストを試算して対策を議論しているが、日本ではそうした取り組みが行われていなかった。
 

初の認知症対策の世界会合で「対処する総合的な計画がない」と危機感

 認知症患者の増加は、世界的な問題となっている。WHO(世界保健機関)によると、現在の世界の認知症患者は約4750万人だ。国際アルツハイマー病協会の発表では、全世界における認知症の患者数は、毎年約800万人ずつ増えており、2030 年に 7600万人、2050 年には 1 億 3500 万人になると推計している。

 3月16・17日、スイス・ジュネーブで「認知症に対する世界的アクションに関する第1回WHO大臣級会合」が開催された。各国の相互理解と重要性を深める目的で開かれた、初の認知症対策に関する閣僚会合だ。多くの先進国では、認知症患者の増加に伴う社会的費用を試算し、この問題を政策課題として位置づけ、その解決を進めている。

 WHOのチャン事務局長は、「認知症にかかるコストは、人的にも資金的にもますます増えるが、対処する総合的な計画がない」との危機感を表明。今後、世界レベルでの認知症の広がりや、各国の取り組みなどを共有する組織を立ち上げると発表された。

 一方、日本では社会保障費の削減が打ち出されている。平成30年の診療報酬・介護報酬の同時改定で、政府は「要介護1などへの生活援助を原則自己負担に切り替える」と提案。今後、ますます「家族介護」の負担が大きくなる公算だ。

 限られた財源の活用には、目に見えにくい社会の費用にも目を配り、政策効果を考えることが必要だ。しかし、「家族介護」の推計を今頃になって初めて発表する、わが国の"ドロナワ"政策ぶりに、国民は安心して将来を託すことができるだろうか。
(文=編集部)

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