末期がん患者の80%が痩せ衰える! 悪液質が完治できれば「苦しまない最期」が迎えられる

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がん悪液質は白色脂肪組織のエネルギー浪費(褐色脂肪組織化)が原因

 スペイン国立がんセンターの研究グループの発表によれば、がん悪液質は、白色脂肪組織のエネルギー浪費(褐色脂肪組織化)が原因である根拠を示した。

 研究グループは、まずマウスにがん細胞を移植し、がん悪液質の状態にしたところ、マウスの白色脂肪組織が急速に褐色脂肪組織化を始めた。さらに、がん細胞の移植後、褐色脂肪組織の中に、肥満化を促すUCP1というタンパク質が増加し、ミトコンドリアの内膜で脂肪を熱に変換する発熱現象を確認した。

 UCP1は、褐色脂肪細胞のβ3受容体とノルアドレナリンが結合すると生成されるタンパク質で、ミトコンドリアの内膜に熱を産生する。たとえば、運動をしなくても熱を産生できるクマの冬眠が好例だ。

 このような脂肪の燃焼は、健康体には好ましい現象だ。だが、がん悪液質の患者の場合は、脂肪が燃焼すると、発熱が加速するため、全身の炎症がますます悪化し、悪液質の悪循環につながるリスクが高まる。

 研究グループは、全身の炎症が起きると増えるIL-6(インターロイキン-6) と褐色脂肪組織化との関連も分析した。IL-6は、T細胞やマクロファージから産生され、感染に対する免疫反応を制御するタンパク質(サイトカイン)だ。その結果、褐色脂肪組織化が起きると、悪液質のマウスも、がん患者もIL-6の量が高まった。一方、IL-6の量が低いマウスは、肥満化を促すUCP1の発現が低く、褐色脂肪組織化も抑えられた。

 つまり、がんが進行していても、全身の炎症を抑制できれば、がん悪液質にかかりにくいため、体重も減らない事実が確かめられたことになる。

 さらに、研究グループは、心拍や発汗をコントロールする自律神経の興奮状態を抑えると、炎症を抑制したのと同様にUPC1の上昇と褐色脂肪組織化の抑制につながる事実も掴んでいる。

栄養療法、薬物療法、リハビリテーションのコラボで、がん悪液質を克服する

 このような褐色脂肪組織化とUCP1やIL-6の分析から、がん患者の褐色脂肪組織化による炎症を未然に阻止する機序や、ホメオスタシス(生体恒常性)を維持する仕組みがさらに解明されれば、がん悪液質の治療が実現する可能性が一気に強まるだろう。

 幸いにも、がん悪液質の治療に関わる研究も進み、エビデンスも蓄積されてきている。

 たとえば、患者の栄養管理研究の第一人者で知られる藤田保健衛生大学病院 外科・緩和医療学講座の東口髙志教授が取り組み、全国約2000の医療施設で稼働しているNST(全科型栄養サポートチーム)の活動だ。

 東口教授らの研究グループは、TNF(腫瘍壊死因子)αやIL-6に対する抗サイトカインの治療では生存期間は延びないことから、適切な代謝制御と栄養療法によって悪液質の症状を抑えながら、終末期がん患者の予後も、寝たきりによる褥瘡発生率も改善できることを実証している。

 その他、モノクローナル抗体を活用する抗体医薬、サイトカインとサイトカイン受容体のシグナル伝達をブロックする低分子医薬などの薬物療法、理学療法士の指導によるリハビリテーションなど、がん悪液質を克服するチャレンジは続いている。

 食欲を減退させない。体重を減量しない。QOL(生活の質)を悪化させない。栄養療法、薬物療法、リハビリテーションを主軸に、がんの増大・転移を抑制しながら、全身の炎症をコントロールできれば、最期の病、がん悪液質を完治も夢ではないかもしれない。
(文=編集部)

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