血液が突然“迷走”する恐ろしさ
では、本来の転倒原因と見られている突然のめまい、「失神」と俗称される20%を占めるといわれる「血管迷走神経反射性失神」は、どんな状況で起こるものなのだろう。
血管迷走神経反射とは、自律神経系の突然の失調のため、血圧や心拍数が下がって脳の血液循環量が減少・確保できなくなる生理的反応だ。これが、めまいや失神を引き起こす。
排尿や排便、咳嗽(せき)や嚥下(飲み下し)や食後に起きる「状況失神」、疼痛や恐怖や驚愕などが招く「情動失神」、あるいは「頸動脈洞症候群」を含めて、「神経調節性失神症候群」とも総称される。
過労・空腹・脱水、起立・長時間の座位・立位、採血や痛み、あるいは前掲のごとく恐怖や不安が誘因となる場合がある。
発見が遅れやすい個室での失神
よく見られるのも、①トイレや風呂場、②注射や採血時、③満員電車内、④温暖下での激しい運動時、④強い精神的ショックやストレスを感じた時、と身近な生活シーンが多い。
いっこく堂さんの場合は、トイレの後に倒れた。①での失神は個室環境ゆえに発見が遅れる例もあるので怖い。
また、前兆を感じたら横になるのが賢明だが、その際も自分の吐しゃ物で気道が塞がらないように気を配る必要がある。
横になったら、下半身に溜まった血液を「筋肉のポンプ作用」で上半身に集めよう。効果に個人差はあるが、手順は簡単。手や足に力を入れたり緩めたりを繰り返すだけでいい。
専門医の勧める予防策としては、(a)毎日2リットルの水分と適度な塩分をとる、(b)壁に凭れて毎日5分以上(~最大30分)立つ、(c)ストレスのない生活を心がける。
ふだんは飲酒習慣を持たない、いっこく堂さん。「梅酒を2~3㎝飲んだため、ちょっと気持ち悪かった」との前兆はあった。手術の必要はないが「食欲が全くなく、水分すら吐いてしまい」点滴中、脳内出血の経過観察と転倒原因究明のために約1週間を要するらしい。
こういう不測の事態は、それこそ“人形が身代わり”になるわけにもいかない。世界が認める腹話術師の一日も早い回復を祈る。
(文=編集部)