従来から、椎間板ヘルニアで入院する人の喫煙率は、平均よりも高いことも指摘されてきた。ではなぜ、喫煙が腰痛や頸部痛を悪化させる一因になるのだろうか?
2002年に日本大学教授の松崎浩巳氏が行った実験では、ウサギに常時タバコを吸っているのと同じレベルでニコチンを8週間与え続け、解剖して椎間板の変化を調べた。すると、ニコチンを与えたウサギの椎間板は周囲の血管の数が半数に減り、弾力を失ってスカスカの状態に変性していた。
次にラットを使い、今度はタバコを1日20本吸った状態で実験を行った。この場合、ウサギほどひどい椎間板の変性は見られなかったが、それでも椎間板の周囲の毛細血管の数が、他の部位に比べてかなり少なくなっていたという。
椎間板はご存じのように、背骨と背骨の間でクッションの役割を果たすもので、栄養分は周囲の毛細血管から供給されている。しかし、タバコのニコチンには血管を収縮させる作用があるため、腰椎周辺の毛細血管を潰してしまい、栄養が行き渡らなくなる。
また、腰椎間板はコラーゲンで作られている。コラーゲンはビタミンCの働きでできるが、ニコチンはビタミンCの消費を促進する作用があり、コラーゲンを減らしてしまうのだ。
こうして椎間板が弾力を失うと、脊椎に異常な動きが生じてくる。それを補おうとして周囲の靭帯が厚くなり、骨棘が生じ、それらが神経や血管を圧迫して血流障害や痛みを引き起こす。腰痛をもたらすさまざまな病気の原因の70%に椎間板が関与しているといわれ、首の痛みでも全く同じメカニズムが考えられる。
もちろん椎間板ヘルニアの危険因子はタバコだけではない。たとえば、コラーゲンの変性は遺伝的な要素もあり、親が腰痛持ちの場合は一層注意が必要だ。
腰痛や首痛はがんのような病気とは認識されないが、慢性化すれば明らかに生活の質を下げるもの。タバコが影響するとはっきりしている以上、痛みに悩まされている人は、今度こそ禁煙の契機にすることをお薦めしたい。
(文=編集部)