心房細動に「未承認」のNOACをガイドラインが「推奨」
薬害オンブズパースン会議の指摘以前から、心房細動治療ガイドラインには「NOAC寄り」だとの批判があった。その1例は「未承認NOACの推奨」だ。
ガイドラインでは、どのような心房細動患者にどのような抗凝固薬が適しているのか示されている。その際、ガイドライン作成時にはまだ心房細動への使用が承認されていなかったあるNOACが、「推奨」、あるいは「考慮可」として明記された。厚生労働省が心房細動への使用をまだ認めていない薬剤を、ガイドライン策定斑独自の判断で「推奨」したのだ。
もちろん、この点は策定斑の中でも問題となった。ガイドラインが「2013年改訂版」にもかかわらず、公表が2014年にずれ込んだのは、この点の合意形成に時間がかかったためだと説明する関係者もいる。
発売後半年を待たずにNOAC推奨の「緊急ステートメント」を出した過去も
心房細動治療ガイドライン策定斑によるNOAC推奨は、今回の改訂が初めてではない。わが国最初のNOACが売り出されて半年も経たない2011年8月、「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント」なる文書が日本循環器学会から公表された。事実上のガイドライン(2008年版)改訂だった。前回ガイドラインには入っていなかったNOACが、発売後半年も経たないうちにファルファリンと並んで「推奨」されていたのだ。
ワルファリンにしてもNOACにしても、抗凝固薬は使い方の難しい薬である。下手をすれば大出血を引き起こす。それゆえ最初は、抗凝固薬の経験が豊富な専門医から使い始め、安全な使用法を模索していく。そして安全な使い方が確立されれば、ガイドラインでの推奨も考慮されよう。
そういう意味で、ほとんどNOAC使用経験が集積されていない時期の「緊急ステートメント」には、違和感を覚えた医師も多かったはずだ。
皮肉なことに、このステートメントが出された当日、ステートメント推奨のNOACによる大出血への警告が、製造社から発せられた。
薬害オンブズパースン会議の公開質問に対し、関係学会、NOAC販売社がどのような回答を寄せるのか、注視していきたい。
(文=黒澤貴/医事ジャーナリスト)