春の選抜高校野球で注目された血友病 難病患者のアスリートは何を伝えるのか

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血友病患者の4割が感染した薬害エイズ事件shutterstock.com

 第87回センバツ高校野球大会で注目された、岡山理大付の記録員・西山大輝(3年)くん。右腕の投手として活躍。血友病が悪化して、集中治療室に入院したこともある。チームに貢献するために、記録員としてベンチ入りし、その健気な姿勢に注目が集まった。

 血友病は先天的に、血液が止まりにくい難病である。現在のところ、完治する治療法は確立していない。治療法は、血液製剤という血液を固まりやすくする成分を注射することである。もう一つの特徴は、ほぼ男性だけに発症する病気であること。

 患者数は、全国で約5000人。なので、一般には、ほとんど知られていない難病といっていい。

 この血友病が日本で広く知られるきっかけとなったのは、1980年代に起きた薬害エイズ事件だった。血友病患者などが治療のために使用した血液凝固因子製剤のなかに、HIVウィルスが混入しており、この汚染血液製剤を注射された患者が、HIVに感染したのである。約4割の血友病患者がエイズを発症して死亡したとされる。

 この事件が悲惨だったのは、小さい我が子に、血液製剤の注射をしたのが親だったことである。親は、その血液製剤が、HIVに感染していることを知るよしもなかった。きわめて犯罪的な薬害である。当時の厚生省(いまの厚生労働省)と、血液製剤メーカーは、薬害を引き起こした「犯罪者」として厳しく批判された。

忘れ去られようとしているエイズ薬害事件

 一般に、先天性の難病をもって生きる人達は、目立つことを嫌う。この薬害事件でも、事件発覚の当初、当事者たちは社会に向かってあまり多くを語ることはなかった。しかし、事件を社会に知らせるために、川田龍平氏(現在は国会議員)が名前と顔をだして、その被害を告発することで、世論は大きく動いた。また、当時の厚生大臣だった菅直人議員が、厚生省が隠していた薬害エイズ関連資料を公開させ、事件の解明におおきな貢献をし、政治家として一躍注目を浴びた。

 あの薬害エイズ事件から、四半世紀が経った。新世代の血友病の若者たちが現れている。

 西山大輝くんもそうした一人だ。血友病の人に、激しい運動は好ましくない。運動をすることで、関節周辺から内出血を起こしてしまうからである。しかし、人間は療養するために生きているわけではないのだ。人生を謳歌するために生きる。

 海外にもチャレンジする血友病の青年がいる。アレックス・ダウセットは2011年から13年にかけて、自転車競技のイギリス個人タイムトライアルのタイトルを3連覇。自身と同じ血友病に苦しむ人たちに希望を与えるために出場する、という。

 私たちは、血友病の若者がスポーツに挑戦することを讃える。しかし、四半世紀前、薬害で多くの罪のない若者が病に倒れたという歴史がある。難病の患者がスポーツ分野で活躍することにエールを送りながらも、過去の歴史を振り返る。そんなニュースの読み方もあるのではないか。

「病状が悪化するので医師の立場からはオススメできない」、そう言われながらもスポーツに取り組む人間は、何かを背負っている。好むと好まざるとにかかわらず。そして観客もまた、その歴史を見つめることが求められているではないだろうか。
 
 なぜ、病者はアスリートになるのか? その人間的なメッセージをどう受け取るのかが社会で生存するわれわれの発せられている問いだ。
 (文=編集部)
※血友病については「ヘモフィリアステーション」が詳しい。

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