肉眼では見えない筆圧痕もくっきり可視化するESDA
筆跡は動かぬ証拠だ。なくて七癖あって四十八癖。筆跡は、人間の身体的な特徴や行動的な癖がそのまま現れるため、形状、筆圧、書き順、スピードなどは、真似ても摸倣し尽くせない。
科学捜査で使われる筆圧痕の鑑定は、主に射光線法による顕微鏡検査が行われてきた。現在は、公文書、遺言書、契約書の偽造などの筆圧痕を解析するESDA(静電検出装置)が主流だ。
ESDAは筆圧痕をどのように検出するのか? まず、筆圧痕を調べる文書に特殊フィルムを被せて放電すると、フィルム密着面が真空状態になり、静電気が発生する。その結果、文書に残った筆跡痕の凹部に静電気が溜まるので、特殊加工したインク粉末を飛散させれば、粉末が静電気に吸い寄せられて凹部に入り込み、筆跡痕がくっきりと浮き上がる。
このようにESDAは、検査する文書にダメージを与えない非破壊検査だ。文書の超微細な筆圧痕でもフィルムに残せることから、科学捜査のさまざまな場面に登場する。
たとえば、印刷された紙やコピーされた紙にも、プリンターやコピー機に固有の圧力痕が残るので、ESDAによって圧力痕を検知すると、使われたプリンターやコピー機のメーカーや機種を特定できるのだ。
ESDAは、偽文書、偽小切手をはじめ、遺言状、契約書、脅迫状などに睨みを利かしながら、犯罪の真実に肉薄し、真犯人を追いつめる。テラヘルツ波もESDAも、科学捜査のまさに手強い“鬼刑事”的存在だ。
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。