強度と血管確保の問題を解決し、マウス、ラットへの移植に成功
今回発表された研究で使用されたバイオプリンターは、論文著者のひとりである米ウェイク・フォレスト大学再生医療研究所(ノースカロライナ州)のAnthony Atala氏らの研究チームが10年かけて開発したもので、生分解性のプラスチック様素材で細胞の型を作り、細胞を懸濁した水性インクを用いることで強度の問題を解決、さらに、「マイクロチャネル(微小流路)」システムを組み込むことで、血管が新生されるまで栄養や酸素を構造内に供給することを可能にしている。
研究では、このプリンターを用いて作製した骨、筋肉、軟骨をげっ歯類に移植して経過を観察したところ、問題なく血管が新生され、機能性組織が形成されたことが示された。
Atala氏は、「いずれは、あらゆる組織を3Dプリンターで出力できるようにしていきたい。それが可能になれば、外傷や疾患、先天性欠損などで損傷した組織の代わりに使うことができる」と述べている。現在のところ、人体サイズの耳、骨、筋組織が作製可能であるという。
米ミシガン大学准教授で、3Dバイオプリンティングの研究者であるGlenn Green氏は、「今回の研究成果は大きなブレークスルーであり、移植可能な臓器作成への道を開くものである」と評している。
同氏によれば、今回の技術で作成した組織をヒトに移植するうえでは、技術的な障壁はないものの、長期的な安定性の問題など、今後確認していくべき点はあるという。「まずは耳や鼻、頭蓋骨など単純な構造の組織から始めて、その後、心臓、腎臓、膵臓などの複雑な組織に取り組むことになるだろう」(Green氏)。
移植にあたって免疫による拒絶反応を避けるためには、患者自身の細胞から移植用の組織を作ることがつくることが望ましいが、これはまた先の目標となる。
Atala氏によると、米国軍再生医療研究所(AFIRM)の一部支援により、負傷した兵士に対する再生医療としてバイオプリントした軟骨、骨、筋組織のヒトへの移植を実施する計画が進行中であるという。
綾瀬はるか演じる〝提供〟という使命を背負わされた青春像が切迫した真実味を帯びているのは、いまだ深刻な移植用臓器の絶対的不足という現実があるためだ。
(文=編集部)
参考:日本臓器移植ネットワーク