一方、大動脈瘤は、動脈硬化によって大動脈壁の内膜に亀裂が生じ、中膜の内部に血液が流れ込むため、脆くなった血管壁が血流の圧迫を受けて膨らみ、コブを形成する病気だ。
コブが胸部大動脈に発生すれば、胸部大動脈瘤、胸部と腹部に連続すれば、胸腹部大動脈瘤、腹部大動脈に発生すると、腹部大動脈瘤だ。
高血圧や動脈硬化に罹りやすくなる40〜50歳代から増える大動脈瘤は、食べ物などが飲み込みにくい、声帯の神経が圧迫されてしゃがれ声になるなどの初期症状を示す。だが、症状が進行し、コブが破裂すると、激烈な痛みを伴い、大量出血、血圧降下、呼吸困難を起こすため、ショック死するリスクが高まる。緊急手術を受けても、生存率は、およそ30%~50%に留まる。
昨年11月、俳優の阿藤快さんが「背中が痛い!」と訴えながら急死したのは、大動脈瘤の破裂による胸腔内出血が原因だった。2010年の俳優の藤田まことさんも、2014年の版画家の畑中純さんも、大動脈瘤の破裂で亡くなっている。
突然死するリスクが高い大動脈瘤の破裂。対策はないのか?
結論はシンプル! 大動脈瘤の原因は高血圧と喫煙だ。高血圧は、大動脈の血管を膨張させ、血管壁に亀裂を起こしやすくする。つまり、動脈硬化を招くことにつながる。
さらに喫煙は、健康にさまざまな悪影響をもたらす。日本禁煙学会によれば、「喫煙は、すべての臓器を侵し、がん・心臓病・脳卒中・慢性閉塞性肺疾患・胎児への傷害などの主要な原因になる。4000種以上の化学物質、50種以上の発がん物質などの有害物質を含むたばこの煙にさらされる非喫煙者は、肺がんや心臓病などの病気で命を脅かされている」と警告している。
日本高血圧学会も「たばこの煙に含まれる活性酸素は、血管内皮細胞を障害する。そのため、動脈硬化が促進され、狭心症、心筋梗塞、脳血栓、脳塞栓、動脈硬化、動脈瘤、閉塞性血栓性血管炎(バージャー病)などのリスクが増加する。高血圧症治療に用いられるβ遮断薬の降圧効果を減じる作用がある」と公表している。
さらに、恐ろしいことに、喫煙を続ければ、大動脈瘤の4cm程度の直径が1年間におよそ2mmずつ拡張し、大動脈瘤の拡大スピードが加速するエビデンスも確認されている。
拡大した大動脈瘤を小さくする特効薬はない。大動脈解離を発症すると、動脈硬化が進んだ高齢者よりも、血管が硬化していない若年層の方が重症化しやすいと強調する学説も根強い。つまり、大動脈解離も大動脈瘤も、誰にでも起きる可能性がある。予防するには、喫煙を励行し、バランスのよい食事や適度の運動に気を配りつつ、生活習慣を見直しながら、高血圧を改善し、動脈硬化の進行を遅らせる他に活路はない。
日々の多忙な生活に追われるまま、ストレスが重なれば、心臓も血管もどんどん疲弊する。血流が悪い冬場こそ、心臓や血管のリスクが高まっている。些細でも異常や兆候があれば、決して侮らず、専門医の診断を受けてほしい。
(編集部)