>  >  >  > 血液型と性格の関係を未だに信じるバカがいる! その2
シリーズ「血液型による性格診断を信じるバカ」第2回

ネットで話題「血液型と性格にはやはり相関性がある」の論文を徹底検証

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 次に問題の土嶺論文そのものについて検討する。

 この論文の要点は、「医学的仮説」「生命科学仮説」という仮説専門誌に2011年にホブグッド(Donna Hobgood)という米テネシー州テネシー医科大学の女性研究者が提唱した「仮説【注2】」を検証したものだ。その仮説とはどういうものか。
 
 まず一般論として、性格や気質が存在すること、これらが脳の神経細胞(ニューロン)のネットワークの働き方の様式(パターン)の違いにより生じること、この活動が外部刺激や血中のホルモン、脳内の神経伝達物質の影響を受けることについては、今日の医学・生理学・認知科学において広く承認されている。
 
 ホブグッドの仮説は「ABO式血液型の遺伝子のごく近くにカテコールアミンの代謝にかかわる酵素遺伝子があり、2つがリンクして遺伝されるために、性格と結びつくのではないか」と主張したものだ。

 この仮説は1988年、ルイジアナ州立医大・生化学遺伝学教室のウィルソンらが発表した、「第9染色体長腕(9q)にあるABO式血液型遺伝子と脳の『ドーパミン-β-水酸化酵素(DBH)』の濃度をコントロールする遺伝子が“リンク”していることを示唆する証拠を認めた」という論文【注3】を根拠としている。“リンク”というのは染色体上で2つの遺伝子が隣接していて、遺伝する際に「一緒に行動する」という意味だ。

 染色体にはちょうどバーコードのような縞模様があり、これには郵便番号のように番号が付けられアドレスを区別している。第9染色体長腕(9q)には9つの縞があり、11から34まで番号が振られている。ABO式の遺伝子が長腕の端末9q34位置にあることは間違いない。

すでに否定されていた論文の前提となる仮説

 1988年にはまだヒトゲノムが解明されておらず、約2万7000個あるヒト遺伝子の詳しい位置は不明だった。ウィルソン論文(1988)は、分子生物学的な手法を用いて9q34番地にDBH遺伝子があることを直接証明したものではなく、白人4家系と黒人1家系を調べ、ABO式の血液型と血中ドーパミンの濃度が遺伝的にリンクしている可能性があると主張したにすぎない。

 DBH遺伝子が9q34にあることの分子生物学的な証明は、1991 年にヴァンダービルト大内科のペリーらによってなされた【注4】。9q34には「アルギノ・コハク酸合成酵素(ASAS)」遺伝子があることも分かった。血液型遺伝子との「リンク係数」を見ると、DBHは4.5であるのに対して、ASASは7.37であり、より高いリンクを示した。しかしASASは血液型物質の合成とも脳内アミンの合成とも関係がない。2つの遺伝子が空間的に隣接して存在するということと、それらが協調して働くということは別の問題である。

 現在では血中のカテコールアミン濃度を規定するDBHの遺伝子は9q34だけでなく、20番染色体の短腕20p12にもあり、いずれも分子多型に富み、遺伝子DNAの「転写」レベルで働き方が異なることが明らかにされている。
 
 つまりペリー論文(1991)はウィルソン論文(1988)の結果を否定したのだ。従って、そもそもホブグッド仮説(2011)が成り立たないのだ、ということがわかる。

解明された全霊長類の血液型の進化過程

 ABO式血液型の遺伝子とその突然変異やA/B型から、現在のヒトのA、B、AB、Oという4つの表現型が進化してきた道筋については、カリフォルニアの「ラ・ホヤがん研究センター」バーナム研究所のヤマモトらが、詳しい研究を永年続け、バクテリアにも認められるA、B、0遺伝子がどのように進化したのか、全霊長類におけるABO式の種特異的な進化などを解明している【注5】。
 
 2012年「米学士院紀要(ProNas)」に発表された米国、フランス、イスラエルの遺伝学者による共同研究論文には、ABO式血液型遺伝子が進化した系統樹が示してある【注6】。それによると4000万年以上前の原始的な霊長類はすべてA型であり、その後3000万年前にB型の突然変異が生じ、旧世界ザルかから新世界ザルが分かれた後に、それぞれ独立してB型あるいはA型遺伝子の欠損が起こり、A型のみもしくはB型のみという表現型が生まれた。両方の遺伝子を失ったのがO型だ。ちなみに類人猿のゴリラはB型のみ、ボノボはA型、ナミチンパンジーにはA型とO型がある。オランウータンにはヒトと同じく、ABOの3型がある。

論文の客観的な評価に欠かせない二つの指標

難波紘二(なんば・こうじ)

広島大学名誉教授。1941年、広島市生まれ。広島大学医学部大学院博士課程修了。呉共済病院で臨床病理科初代科長として勤務。NIH国際奨学生に選ばれ、米国NIHCancerCenterの病理部に2年間留学し血液病理学を研鑽。広島大学総合科学部教授となり、倫理学、生命倫理学へも研究の幅を広げ、現在、広島大学名誉教授。自宅に「鹿鳴荘病理研究所」を設立。2006年に起こった病気腎移植問題では、容認派として発言し注目される。著書に『歴史のなかの性―性倫理の歴史(改訂版)』(渓水社、1994)、『生と死のおきて 生命倫理の基本問題を考える』(渓水社、2001)、『覚悟としての死生学』(文春新書、2004)、『誰がアレクサンドロスを殺したのか?』(岩波書店、2007)などがある。広島大学総合科学部101冊の本プロジェクト編『大学新入生に薦める101冊の本』(岩波書店、2005)では、編集代表を務めた。

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