このような撤回案件が地球レベルで蔓延急増中の背景には「コピペ⇔告発」文明の衝突が読み取れるが、最近、斯界を荒らしているのが捏造寄稿者よりも役者が数段上ともいえる「ニセ論文誌」の出没だ。具体的には専用サイトを持たない科学論文誌2誌『Archives des Sciences』『Wulfenia』をウェブ上でなりすまし(偽装)して投稿論文を募っては掲載料を騙し取る詐欺手口だ。
両誌の詐欺サイト上では前者の編集委員会が87名、ニセWulffenia誌上では同35名、いずれも著名学者名が列挙されているが、もちろん無許可ないしは架空の陣営だ。権威づけや売名目的でカモにされる著者負担金は500ドル(約5万円)程度らしいが、被害者には上昇志向がより強い発展途上国系の研究者が多いらしく、アルメニアの銀行口座に還流された後は泣き寝入りしかないのが現状らしい。
一方、詐欺未満でも野心家たちが負担する掲載料目当てで論文の信憑性などは二の次、執拗に「論文発表」を促すメールを送り続けるインチキ系の学術誌もどきも横行中だ。
ハーバード大学の学生が試しにココア味のシリアルCMをパロって、文章作成ソフトに委ねて支離滅裂な論文をでっち上げ、計37誌の曖昧誌に投稿した結果、計17誌から「(掲載推奨の)快い返事」が来たというから笑えない。これでは懸賞落選者に「才能を惜しむ」的な手紙を送って呼び寄せ、半ば詐欺的に金を負担させる自費出版社系の手口と変わらない。「学術誌ってなんだ? それな!」と日本の高校生たちさえ苦笑しそうな権威失墜談だ。
(文=編集部)