道路の騒音は知らぬ間にストレスとなり……(shutterstock.com)
テレビや新聞で時々見かける、住民同士の騒音トラブル。「世知辛い世の中になったなぁ」と思う半面、街の賑やかさには割と無頓着な人が多いのではないだろうか。
そう、静かな環境を求めて居住する人にとっては小さな雑音も耳障りだが、便利さ優先で都会に住む人にとっては、絶え間ない交通騒音もいつの間にか生活の一部になってしまうことがある。
しかし、交通量の多い道路の近くに住むことにより、交通事故や大気汚染ではなく、騒音そのものが人の死亡リスクを高めるとしたら……。そんな、ちょっと聞き流せない研究結果が、イギリスで明らかになった。
欧州の医学誌『ヨーロピアン・ハート・ジャーナル』での報告によると、道路騒音の中で長く暮らす人は寿命が短くなる可能性があるとのこと。特に高齢者は死亡率が高く、脳卒中のリスクも上がるというのだ。
75歳以上の高齢者は脳卒中のリスクが9%も上昇
WHO(世界保健機関)は、住宅地の騒音の上限を55デシベルと定め、これを超えるものは健康に有害としている。しかし、欧州最大級の都市ロンドンでは、160万人以上が昼間、55デシベルを超える交通騒音にさらされているという。
騒音は自律神経系へ影響を及ぼし、心拍数や血圧を上げ、ストレスホルモンを増加させることなどが指摘されている。
そこでロンドン大学衛生・熱帯医学大学院の研究者らは2003〜2010年にかけて、ロンドン市民860万人のデータを分析。昼夜の道路騒音のレベルと、脳卒中や心筋梗塞による死亡数・入院件数を調査。騒音レベルは、55デシベル未満、55〜60デシベル、60デシベル超の3群に分け、25歳以上の成人全体と、75歳以上の高齢者グループとで比較を行った。
ちなみに、40デシベルは「深夜の市内、図書館、静かな住宅地の昼 」、50デシベルは「静かな事務所」、60デシベルは「静かな乗用車、普通の会話」、70デシベルは「騒々しい事務所、騒々しい街頭、掃除機、電車のベル、ステレオ(正面1m)」 というのが一般的な騒音の基準だ。
その結果、昼間に道路騒音が60デシベルを超える地域では、55デシベル以下の地域に比べて、成人全体の死亡率が4%高かった。これについては心臓や血管疾患との関連が疑われ、騒音による高血圧や不眠、ストレスも関係しているかもしれないという。
さらに、昼間の道路騒音が60デシベル以上の最もうるさい地域では、55デシベル以下の地域に比べて、脳卒中で入院する成人の割合が5%高くなった。75歳以上の高齢者に限ると、リスクは9%も上昇した。また、夜間の道路騒音については、高齢者に限って脳卒中のリスクを5%引き上げていたという。