安倍首相は国民の“空気” を利用して主体的な責任の自覚を回避している!?

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 このように空気を利用することで、自分も、何らかの支配や搾取を行っている集団の構成員である事実を意識から排除することができます。その上さらに、所属集団の秩序をよく守って抑制的に振る舞っている自分の姿を確認して、そこからナルシシスティックな満足をえることも可能です。

 日本人は空気に支配されやすいとも言えますが、空気を利用して主体的な責任を自覚することを回避しているとも言えます。自己主張を行わないことには、後から責任を問われるリスクを回避して、安定した経済的な利益を確保しやすいメリットも存在します。

「滅私奉公」という自我理想にこだわることには、自分が持っている貪欲さや支配欲を意識することから生じる不安や罪悪感から、自分のこころを防衛するという意味もあります。

 今回の談話の問題点は、その内容が、ここまでの内閣関係者の論調から突然に変化したことです。少し前まで、首相の近くからは法を尊重する意志がないことを示す言動がくり返されていました。しかし、そのことに反発する世論が強まると、一転して反対の内容を強調する談話を発表しています。

空気だけではなく責任を負える主体性の確立を

首相は、あまりにも空気を読み過ぎではないでしょうか。

 そして、そのようなことならば、また空気が変われば「法などまともに相手にしなくてもよい」という態度が出現するかもしれません。

 前言撤回を恥と思わない心理的なメカニズムについては、拙論「ナルシシスティック・パーソナリティーはこころの中にたくさんの分裂を抱えている」で論じさせていただきました。

 豹変した態度は人を不安にさせます。「本当は、首相は法や戦争責任の問題などどっちだっていいやと考えているのではないか」という疑念が頭をかすめました。

 やはり、今回の談話が川内原発の再稼働とほぼ同じタイミングで発表されたことの意味を考えずにはおられません。今回の談話の目的が、「とにかく国民の空気をかわして、原発再稼働の問題等を先に進めること」でないことを、切に願うばかりです。

 私は、原子力発電や集団的自衛権などの問題について無条件に反対しようとは思いません。しかし、それらが準備不足のままに、全体の空気、それも特に関連した権益を持つ人々が作る空気に流されてズルズルと先に進んでしまうことには反対します。

 そして、福島の問題が現在のように収束からほど遠い状況で、事故を起こした社会構造上の原因への対処が行われていないままでの川内原発の再稼働は、正当化が難しいと考えています。

今回の談話の内容は、基本的にすばらしいと思いました。

 しかし、その談話の提示のされ方において、首相は空気に支配され、同時に空気を利用する傾向があることを疑わせます。今後、首相が、原子力発電や軍需産業の権益と関わる層が作る「空気」から距離を取り、責任のある一貫した態度を保てるのかという点には不安が残りました。

 そして、空気に流され過ぎずに、一貫した責任を負える主体性を確立することが求められているのは、首相だけではなく、民主主義の国家に生きる国民一人一人です。

 政治の場に現れているのは、国民全体の精神性を反映する鏡像かもしれないのです。


堀有伸(ほり・ありのぶ)
精神科医。東京大学医学部を卒業。東日本大震災に強い衝撃を受け、都内の大学病院をやめ福島へ。メンタルクリニックなごみ 非常勤医師、南相馬市立総合病院 非常勤医師。

(2015年10月5日 MRICより転載)

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