シリーズ「再生医療の近未来」第3回

再生医療が最も進む眼科の疾患――患者たちに光をプレゼントできる日も近い!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
saisei002.jpg

臨床試験が最も進んでいる再生医療は眼科疾患(shutterstock.com)

 再生医療に限らず、どのような医療も長い道のりを歩んで実用化される。基礎研究に始まり、トランスレーショナル(橋渡し)研究や臨床研究を重ね、臨床試験(治験)を経て、何年もの歳月、巨額な資金、多くの研究者や科学者の貴重なノウハウや経験が投入されて、初めて臨床現場で実用化され、治療に役立てられる。

 したがって、多能性幹細胞であるES細胞やiPS細胞の作成や初期化に成功しただけでは十分ではない。それらの作成技術の体系化から、大量に細胞を培養する増殖法や品質管理法の開発、有用細胞へ効率よく分化させる技術の開発、最適な方法で患者の必要な部位に移植する技術まで、多くの段階のプロセスを確実に実現させる実用的な技術体系を組み立てる必要がある。

 しかも、このような治療法や技術体系が構築できたとしても、乗り越えるべき課題はまだある。再生医療が真に実用化するためには、信頼性、有効性、安全性が確認されるとともに、今すぐにでも治療を必要とするすべての患者の手に届くだけのリーズナブルな治療コストを維持しなければならないのだ。

まず目の病気の治療からスタート

 しかし、これらの難題は、少しずつ解決に向かっている。2015年現在、多能性幹細胞であるES細胞やiPS細胞を使った細胞治療の研究や臨床応用が意欲的に取り組まれているのは、網膜変性症、1型糖尿病、パーキンソン病、病脊髄損傷、心筋梗塞、肝硬変の治療だ。なかでも、患者での臨床試験(治験)が最も進んでいるのは、加齢黄斑変性症(かれいおうはんへんせいしょう)や網膜変性症などの眼科疾患の治療になる。

 加齢黄斑変性症は、加齢によって網膜の中心部である黄斑に障害が生じ、見たい部分が見えにくくなる疾患だ。網膜変性症は、光を感じる網膜に異常がみられる遺伝性の疾患で、暗いところでものが見えにくい夜盲(やもう)、視野が狭くなる視野狭窄、視力低下が主な症状。日本では人口10万人に18.7人の発症率と言われている。

 これらの研究開発をリードしてきたのは、米国のACT/Ocata社や英国のPfizer社などのバイオテク企業だ。2014年、ES細胞を使って網膜色素細胞に分化させ、数十名の患者に細胞移植し、良好な予後を得ていると論文発表されている。日本の理化学研究所は、患者由来のiPS細胞を使って網膜色素細胞に分化させ、細胞移植する臨床研究をすでにスタートしている。

 このような眼科疾患後料が先駆的に進んでいるのはなぜか?

 それは、眼科疾患は、細胞治療の効果を期待できるメカニズムが明確である点だ。つまり、失われた網膜色素細胞を補充するだけで、網膜色素細胞が分泌する成長因子によって網膜の視細胞を回復できるからだ。

 しかも、移植には10万個程度の網膜色素細胞があれば、治療効果があると言われている。また、眼球内の移植は、通常の眼科診療に用いる光学検査機器を使って体外から観察・診断が行えるので、もし移植細胞ががん化しても、レーザー光でがん細胞を消滅できる。さらには、眼球中は免疫隔離の状態のため、患者由来の細胞でなくても免疫拒絶反応が起きにくいことも治療効果を高めることにつながっている。

 これらの臨床治療のエビデンスが蓄積されれば、複雑な眼科疾患の完治に道が拓かれ、多くの患者に光をプレゼントできる日も近いにちがいない。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

除菌で虫歯と歯周病を予防する「3DS」~薬を塗ったマウスピースを5分間はめるだけ
インタビュー 口腔内を除菌して全身疾患を予防する「3DS除菌」② 鶴見大学歯学部・探索歯科講座 花田信弘教授/山田秀則助教

第1回:口腔内の雑菌は100億個以上~<除菌治療>が歯周病と生活習慣病を防ぐ!
虫歯や歯周病の原因菌が、生活習慣病を引き起こす発症リスクになることがわかっているため、今後は虫歯や歯周病を直接治療するだけに留まらず、「予防歯科」の必要性が近年ますます高まってくる。鶴見大学歯学部付属病院では、3DSという治療法を用いて、歯科治療のみならず、全身疾患の予防を目的に画期的な専門外科を開設している。

日本中毒学会評議員(同学会クリニカルトキシコロジ…

横山隆

フリージャーナリスト。1949年、東京都生れ。法…

郡司和夫

理学療法士。日本で理学療法士として勤務した後、豪…

三木貴弘