死に向かっている高齢者を、無理やり「死なせない」ことが正義であると考える医療スタッフは多い。
ある高齢者の家族が、医師に点滴も経管栄養もせずに看取ってほしいと希望したら、「餓死させる気か!」と怒られたという。退院を迫られるケースもある。また、ある会合で介護施設の看護師が自然な看取りの経験を発表したとき、会場にいたある医師は「あなたは患者を見殺しにしたに過ぎない」と非難したという。
自力で食べられなくなった、飲めなくなった患者には「人工栄養で延命することが当たり前だ」と考えている医師や看護師はまだまだ多い。
介護施設でも同じことがいえる。終の住処である特別養護老人ホームでは、施設側や家族が「今まで生活していた施設で最期を迎えさせたい」と望んでも、配置医師の意向により病院に入院させられ、延命医療が行なわれることもある。在宅療養の場合でも、本人と家族、そして訪問看護師が家での看取りを合意していても、主治医が「看取りまでは考えていない」と言えば、家で自然に看取ることは難しくなる。そして病院に送られ、延命医療が始まっていく。
医療スタッフの延命至上主義が、寝たきり老人を増やす一因になっていると言っても言い過ぎではないだろう。
終末期の前に、寝たきり回避の取り組み
しかし、すべての医師や看護師ら医療スタッフが手をこまねいて寝たきり老人を量産しているわけではない。
風邪をこじらせて肺炎になった、転んで大腿骨を骨折した、胃潰瘍や胆石など手術が必要になったなど、さまざまな理由で高齢者が入院すると、環境が変わったことが原因でせん妄(頭が混乱した状態)を起こしたり、筋力が落ちて廃用症候群に発展したりすることが少なからずある。通常、このままだと寝たきりになってしまうことが多い。
「寝たきりにさせないために、いろいろな方法で頑張っています」と話すのは、愛知県のある病院に勤務するベテラン看護師。この病院では、終末期を迎える前の高齢者に対し、寝たきりになるのを水際で回避するためにさまざまな方策に取り組んでいる。
たとえば食事。高齢になると飲み込みが悪くなるが、まずは患者一人ひとりがどれくらいのレベルの食物ならスムーズに嚥下できるかを調べる。片栗粉やゼラチンでとろみをつけたさまざまな段階のソフト食を用意し、一口ごとに代えて食べさせてみて、どの段階のものがその患者に適切であるかを見る。「胃ろうをつけて入院してきた患者が、この方法で口から食べられるようになり退院したケースもある」ということだ。
看護師や薬剤師、言語・理学・作業などのリハビリスタッフによるチームプレーで高齢者一人ひとりをフォローする。点滴をしながら歌を歌う音楽療法もあり、何がその人に合うかを探りながら寝たきり防止に努める。
医療者によるこうした新しい取り組みが、寝たきり老人を自動的につくる医療を変えていくことを望みたい。
(文=編集部)