高齢者に苦しい思いをさせているのは誰のせい? kokano/PIXTA(ピクスタ)
話すこともできず、自分で排泄もできない......。胃ろうなどの管につながれた"寝たきり老人"が現在、日本には200万人もいると予想される(平成11年度「厚生白書」)。
その多くは回復の見込みがなく、場合によってはベッドに縛り付けられ、"その時"が来るのを待っている。意識がなくなってから10年以上ベッドの上で過ごしている人もいるという。
将来、自分の親が、あるいは自分自身が、そのような姿で何年も生き続けるというイメージを持てる人がいるだろうか。できれば長患いせず、家族に介護の負担をかけることなくこの世からフェイドアウトしたい......。漠然とそう思っている人が大多数ではないだろうか。
なのになぜ、寝たきり老人が増えていくのか?
病院経営のために施される延命治療
今年6月に刊行された『欧米に寝たきり老人はいない 自分で決める人生最後の医療』(宮本顕二、宮本礼子・著)には、複数の要因が記されている。そのなかでもまず挙げられるのが、社会制度や医療システムの問題だ。
日本の医療機関では、中心静脈栄養(心臓の近くの静脈にカテーテルを通し、そこから栄養を送る)や人工呼吸器をつけると、診療報酬が高くなる。また、急性期病院(救急医療や難易度の高い手術などを行なう病院)では、在院日数が長くなると診療報酬が減ってしまう。そのため、胃ろうを造って早期退院を促すのだという。
つまり、病院経営のために延命治療を行なう場合が少なからずあるということだ。
脳卒中などで倒れ、急性期病院で緊急手術を行ない、命は取り留めたものの重い障害が残ったという場合でも、ある程度、回復したら退院を迫られる。家族の都合で在宅介護が無理ということになると、介護施設への入所や療養病院への転院だ。その際、口から食べることができない患者は、胃ろうを施していなければ受け入れてもらえないことが多い。
胃ろうを造るべきかどうかを悩む以前に、ベッドを確保するために胃ろうを造らなくては、という現実があった。
医療制度を変えていくように声を上げるべき
病院経営のための延命治療についてどう考えるのか、同書の著者である宮本礼子さんは次のように話す。
「延命措置が行われる大きな理由の一つに、診療報酬の問題があります。現在、大半の病院は経営が苦しく、延命措置を行うことで経営が赤字になることを防いでいます。しかし、だからといって、高齢者が悲惨な最期を迎えてよいことにはなりません」
「多くの医師は『できることなら高齢者には延命措置を行いたくないが、今の医療制度では仕方がない』と言います。それならば、医療制度を変えていくように声を上げるべきです。一医師ではどうにもならない問題とあきらめ、高齢者がつらい思いをしている現状に目をつぶっています。しかしそれでは、日本の医療に倫理はないことになってしまいます」
「医師には、高齢者を安らかな最期に導く責任があります。医療倫理の観点から、日本医師会をはじめとして医療に責任を持つ団体は、高齢者の終末期医療のあり方を検討するべきです」