頼朝の病死説は諸説あり、噛み合わない。
明治時代の医学史家・富士川游によれば、頼朝は脳卒中を起こして突然意識を失い、手足が麻痺して落馬したとしている。脳卒中なら、脳の血管が詰まったか、破れたかだ。
血管が詰まって狭くなり血流が滞れば脳梗塞、脳の太い血管が動脈硬化で狭くなり血栓が生じて血管が詰まれば脳血栓、心臓などからの血栓が血管を塞げば脳塞栓症、一時的に脳の血管が詰まれば一過性脳虚血発作だ。脳の中の細かい血管が破れて出血したなら脳出血、脳の表面の大きな血管にできた動脈瘤が破れたならくも膜下出血だ。いずれにしても、確認の手立てがなく、真偽は不明だ。
関白・近衛実家の日記に、「前右大将頼朝卿、飲水に依り重病に」とあり、糖尿病を疑う説もあるが、詳らかではない。その他、『盛長私記』によれば、橋供養の際に亡霊が現れ、驚いた馬が走りだして川に落ち、頼朝は落馬して河原の石に頭を打ったとある。川に落ちて水を飲み溺死した、橋供養から帰る頼朝を兵士の残党が待ち伏せし、突然斬りかかられて落馬した、愛人のところへ忍んで行こうとした頼朝が、曲者と間違われ斬られたなどの俗説も多々ある。
『保歴間記』では、頼朝に殺された源義広、義経、行家、安徳天皇の亡霊が現れ、その祟りで死んだとする亡霊説を残す。『常山紀談』『見聞私記』などは、北条政子の下手人説をとる。
落馬が事実だとしても、脳卒中で落馬か、落馬して脳卒中かは憶測の域を出ない。頼朝は脳卒中で死んだのかもしれない。頼朝が生きた12世紀。当時の日本人の死因を知る資料もデータもない。
現在、脳卒中の患者数は約150万人。毎年25万人以上が発症。がん、心臓病、肺炎に次いで死因の第4位。寝たきりになる原因の3割近くは、脳卒中などの脳血管疾患だ。高齢者の急増や、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病の増加で、脳卒中にかかる患者は、2020年に300万人を越えると予想されている。
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。