いっぽうで、家族の都合により生かされてしまうケースもある。年金受給のためだ。
たとえば、親の介護のために仕事を続けられずに辞めてしまった場合、退職金や貯金を取り崩したあとは、親が受給する年金が頼りとなる。親が死んでしまえば唯一の収入源を断たれてしまうために延命を望むケースもある。親も子どもを養うために容易には死ねないのだ。
まして、事前に「胃ろうなどの延命措置は絶対にしたくない」という意思を示していない場合、家族は迷うことなく延命措置を希望することになる。
自分は嫌な延命措置なのに、家族には希望
がん患者にはよく、QOL=Quoality of Life(生活の質)が大切だと叫ばれるが、寝たきり老人にその言葉は適用されないのだろうか。チューブにつながれうつろな目をした寝たきり老人は、関節が拘縮し褥瘡が治らない人も多いというが、そんな彼らにQOLは対象外なのだろうか?
同書籍の著者、宮本礼子さんは言う。
「人生の最晩年を生きる高齢者にこそ、QOLはとても大切です。だれもが老後は穏やかに暮らしたいと思っています。しかし、現代の医療ではそれが叶いません。寝たきり老人は何もわからないのに、おしめをされ、管から栄養を入れられます。痰の吸引は苦しいものです。管を抜こうとすると、手足が縛られることもあります。このようなことは、許されることではありません」
「寝たきりでも、『生きているだけで私は嬉しかった』と言うのは、家族のエゴに過ぎません。ある92歳の患者さんは、娘さんにこう言いました。『延命措置はしないでちょうだい。もし迷ったら、あなたのして欲しくないことは、私にもしないで』と。医療者も家族も、自分にはやって欲しくないことを、もの言わぬ高齢者に行ってはいけません。『己の欲せざるところは人に施すなかれ』です」
「人は必ず死にます。そのとき、尊厳ある死でありたいと願います。患者の権利に関するリスボン宣言(第34回世界医師会総会、1981年)の中にも、『患者は尊厳のうちに死ぬ権利をもっている』とあります」
人間の尊厳を守るため、家族は本人の意思を尊重すべきだろう。
(文=編集部)