このような腸内細菌の集まりを叢(くさむら)にたとえて「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」とか、お花畑(フローラ)にたとえて「腸内フローラ」と呼ぶ。腸内細菌の全体という意味から「マイクロバイオーム(microbiome)」ともいう。
腸内フローラの役割は何か? 様々な生理作用があるが、有用な作用は、病原菌の定着を阻害する、免疫系を活性化する、ビタミンを産出するなど。有害な作用は、腐敗産物や発がん物質の産出、大腸がんなどの腸疾患への関与などだ。
最新の遺伝子解析技術は、腸内フローラの神秘をかなり解き明かしている。腸内フローラは、ヒトの免疫能力をつかさどり、がん、糖尿病、うつ病をはじめ、肥満や肌のシワなどに至るまで深く関わっている。
宿主であるヒトと共生しながら、腸内細菌のバランスによって健康は保たれている。したがって、有用な働きをする細菌を優勢に、有害な働きをする細菌を劣勢に保つことが、腸内健康の維持に欠かせない。
欧米では、腸内フローラの全貌を解明するために、国家的な研究プロジェクトや腸内フローラを治療に活かす臨床研究が次々と動き出した。腸内フローラは、人類の寿命を延ばしたワクチンの開発や、抗生物質の発見に匹敵するインパクトとポテンシャリティを秘めている。
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。