熱中症は、ショック状態になれば死の危険もある
shutterstock.com熱中症の季節が到来した。総務省消防庁の発表によると、6月15~21日の1週間に熱中症のため救急搬送された人の数は全国で672人。搬送直後に死亡が確認されたのは2人だった。
岡野惣一君(仮名)は高校2年生だ。野球部で毎日練習に打ち込み、汗を流している。夏の甲子園をめざし、練習も佳境。朝のニュースでは、今日は快晴で予想最高気温は30℃以上だった。炎天下の中での練習を終え、数キロ離れた部室までジョギングして帰った。ところが、部室に着くや否や、岡野君の様子がおかしいことにチームメイトたちが気づく。控えの部屋でしばらく休んでいたが、顔色が悪く、意識もはっきりせず、呼吸も苦しそうだ。すぐに救急車を呼び、近くの病院に搬送した――。
日本体育協会の「熱中症予防のための運動指針」は、気温が35℃を超えた日や、気温が高くなくても湿度が高い日の運動は、原則的に中止することを要請。熱中症を引き起こさないために、猛暑や炎天下で運動するときは定期的に休憩し、こまめに水分補給することを提案している。岡野君は、炎天下で練習やジョギングをしていた。連日の試合や期末試験後の疲れに猛暑が追い打ちをかけたようだ。
岡野君が起こした熱中症は、夏の強い日射しの下で激しい運動や作業をする時だけでなく、身体が暑さに慣れない梅雨明けの時期にも起こる。屋外だけでなく、高温多湿の室内でもかかることがあるから恐い。症状が深刻になれば命に関わるので、侮ってはいけない。熱中症の正しい知識をもち、自分でできる予防対策を心がけよう。
まず、暑い環境で生じる健康障害の熱中症とは何だろう? 熱中症は「熱失神」「熱けいれん」「熱疲労」「熱射病」の4つに分けられる。順番に見て行こう。
熱射病は命に関わる。身体を冷やして体温を下げ、意識を回復させよう
「熱失神」は、体温の上昇と皮膚血管の拡張によって血圧が低下し、脳血流が減少して起こる。症状は、めまい、一時的な失神、顔面蒼白など。脈は弱まるが速くなる。涼しい場所で衣服をゆるめて横になり、しっかりと水分補給しよう。
大量に汗をかき、水だけを補給して血液の塩分(ナトリウム)濃度が低下すると、足、腕、腹部の筋肉に痛みを伴ったけいれんが起こる。これが「熱けいれん」だ。生理食塩水(0.9%の食塩水)を補給すれば回復する。
「熱疲労」は、大量に汗をかき、水分の補給が追いつかず、身体が脱水状態になって起こる。全身倦怠感、悪心・嘔吐、頭痛、集中力や判断力の低下が見られる。涼しい場所で衣服をゆるめて横になり、水分補給を十分しよう。
最も警戒したいのが「熱射病」だ。熱射病は、体温が急上昇し、自律神経の機能に異常が起きる。呼びかけや刺激への応答が鈍い、言動が不自然、ふらつく、意識がないなどの意識障害が特徴だ。ショック状態になれば、死の危険もあるので、とくに注意しなければならない。
熱射病が疑われたら、まず風通しのよい日陰やクーラーの効いている室内などの涼しい場所へ移動し、衣服をゆるめる。全身に水をかけたり、濡れタオルを当てて身体をよく冷やす。首すじ、脇の下、大腿部の付け根などの血管を水やアイスパックで冷やす。足を高くして、末端から中心部に向かって手足をマッサージするのもよい。吐き気や嘔吐で水分補給ができない時は、集中治療ができる病院で点滴を受ける必要がある。熱射病は、身体を冷やして早く体温を下げながら、意識を回復させる初期処置がとくに重要だ。
このように熱中症は、さまざまな症状がある。めまいやふらつきなどの初期症状に気付いたらすぐに体を休ませう。意識がはっきりしていない、自分で水分や塩分(ナトリウム)を摂取できない、症状がよくならない、このような状態に気づいたら、すぐ病院に連れて行こう。
(文=編集部)