疲弊する介護者をサポートする"アラジン"
上司や部下だけでなく取引先からも人望の厚かった有能な社員が、退社しなくてはならなかった理由は親の介護だった――。
いまビジネスの世界で問題になりつつある「介護による離職」。これを食い止めるにはどうしたらよいのか? 介護者の支援事業を行うNPO法人「介護者サポートネットワークセンター アラジン」の牧野史子理事長に話を聞く。
5年間で48万7,000人。これは平成19年10月から24年9月にかけて介護のために仕事をやめた人の数だ(15歳以上。総務省「平成24年 就業構造基本調査」。5年ごとに実施)。この数字は兵庫県西宮市や千葉県松戸市の人口にほぼ匹敵する。5年間で「労働力」という地図上から都市が一つ消えてしまった計算だ。
毎年実施される厚生労働省の「雇用動向調査」からも深刻な状況が見て取れる。平成24年に会社などに勤めながら介護をしている人の数は239万9,000人。うち女性は137万2,000人、男性は102万70,00人。さらに、仕事と介護の両立を諦めて離職する人は女性8万1,000人、男性2万人にも上る。「介護離職」、それは今や見過ごせない社会問題なのである。
夫や息子も介護の担い手
高齢化社会を迎え、これからますます増えていくと予想されるのが、介護に携わる人の数。現代の介護の特徴は、男性も大事な担い手であるということだ。
電話相談や相談員の派遣など、介護する人の支援事業を行っているNPO法人『介護者サポートネットワークセンター アラジン』の牧野史子理事長は次のように言う。
「介護といえば昭和60年代までは半数の家で嫁が担っていましたが、今は嫁の割合は10%以下になりました。代わりに増えているのが実子による介護や老々介護です。特に増えているのが、息子が親の面倒をみる、年老いた夫が妻を介護しているケース。私たちが行っている電話相談でも男性からの相談が増えています」
もう一つの特徴は、離職する年代が中高年であること。55~59歳をピークとして、40~59歳で離職するケースが実に6割を占める。その一方で見逃せないのが若い世代の離職者の存在だ。20代で会社を辞めた女性は2400人、男性はもっと多く3,000人もいて(平成24年)、中高年に比べれば数は少ないが、これほど多くの若者が介護のために仕事を辞めている事実は驚きだ。
「昔は大家族で生活していましたが、現代は核家族の世帯が多くを占めます。ですから今の若者は、お年寄りと暮らしたことがない、子育てするところを見ていない、人の死を見ていないのです。そんな人がいきなり介護に直面すると、とまどってしまうのは当たり前です」
そう話す牧野理事長。慣れない介護と仕事との両立に疲弊し、結局は会社を去っていく若いサラリーマンの姿が見えるようだ。
NPO法人 介護者サポートネットワークセンター アラジン
*アラジン「心のオアシス」(電話相談)専用ダイアル/03-5368-0747(毎週木曜 午前10:30~午後3:00)