適度な日光浴がくる病予防にshutterstock.com
幼児のくる病の増加が注目されている。以前には、くる病は学会報告などでも、非常に珍しい病態と考えられていた。ところが2000年に入ったあたりから増加傾向を示し、埼玉県内の総合病院に勤務する小児科医によると「ごくありふれた病気となっている。特に子供のくる病が目立つのではないか」と話す。このくる病増加のルーツに一つの目立たない事実が隠されていた。
くる病とは、ビタミンDの欠乏や代謝異常などによって、骨が石灰化してもろくなってしまう病気だ。カルシウムやリンなどのミネラルの代謝や恒常性の維持、骨の代謝に関係しており、不足すると子供ではくる病、成人では骨軟化症などが起こることが知られている。本来、ビタミンDは、魚介類などの食品に含まれているが、コレステロールを材料に皮膚から吸収する紫外線によって体内で合成することもできる。
昨年放送のNHK「あさイチ」では、2000年ごろから「くる病」の患者が増え始めていると特集された。この中で東京大学大学院の北中幸子准教授が、「最近、関東地方の健康な子ども、69人の血中ビタミンD濃度を調べた結果。およそ4割の子どもで、不足していた。くる病が増えている原因は、ビタミンD不足の子どもが多いからだ」と指摘。さらに、ビタミンD不足の原因として母乳育児の広がりも原因のひとつだとしている。
こうしたビタミンD欠乏はどうして引き起こされたのか?実は大雑把で、結論ありきの霞ヶ関のある委員会での議論にその始まりを見ることができる。
母子健康手帳から「日光浴」が消された日
1997年11月4日、厚生省(当時)の中央児童福祉審議会母子保健部会が開かれた。その議題は主に2つ。①小児(幼児)の肥満とやせの判定表・図について②母子健康手帳の改正について。この会議でその後の子育てに大きな影響を与える重要な決定がなされていた。
この会議の翌年、厚生省は紫外線が皮膚に与える害が大きいとして、母子健康手帳からも「日光浴」という言葉を削除した。それまでの母子健康手帳では、子育てについて「外気浴や日光浴をしていますか」という文言があったが、改訂版では「日光浴」を削り、単に「外気浴をしていますか」との表現に変えた。
厚生省の説明では「紫外線の害が学会で報告されている。赤ちゃんを外気や温度差などに慣らすのは外気浴だけで十分」とされている。小さいころから紫外線を多く浴びた人ほど皮膚がんの発生率が高い――というオーストラリアなどでの調査を踏まえた判断だ。
ところが、当時の母子保健部会の議論では、「一般的な日常生活、これはおよそ常識的な線があると思うが、赤ちゃんを真っ裸にして直接日光にさらすとか、朝から晩まで裸で外で遊ばせるとか、そういうことがなければ大きな問題を生まないのではないか」「コーカシアンと違って、皮膚がんの発生率が黄色人種において最近になってどのくらい増えたかどうか、はっきりとしたデータが欲しい」「皮膚科の議論は遺伝的な劣勢の遺伝子を持っている人たちのリスクが高い。そういうのを除けば、ほとんど問題にならないと考えられる」と参加した委員からの指摘が相次いだ。
さらには「病理的な立場だけではなく、暮らしの視点で密室の中での保育に過ぎることが心配。(日光浴という言葉は)ぜひ残していただきたい」とまで発言した委員がいる。