インタビュー 生活を整えることから依存症の治療が始まる! 第1回 榎本クリニック 深間内文彦院長

"都会のど真ん中"に依存症に悩む人たちの生活の場があった!

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駅前のビル丸ごとデイケア施設

 「精神科デイケア」という医療形態がある。かつて精神医療の世界で主流だった入院医療でもなく、かといって診察日だけ患者が精神科医のもとを訪れる通院医療とも違う。

 クリニックに毎日患者が通い、さまざまなプログラムを受けて決まった時間を過ごすものだ。精神科患者にとってのデイケアとは、日中の居場所でもあり、継続的な治療の場でもある。

 医療保険の診療報酬制度上の位置づけでは、「精神科デイケア」(1日6時間)、「精神科デイナイトケア」(同10時間)、「精神科ショートケア」(同3時間)がある。

 その日本における草分け的存在が「榎本クリニック」(東京都)。現在は本院のある池袋のほかに分院(新大塚・飯田橋・御徒町)がある。各クリニックは全て駅前にあり、ビル丸ごとがデイケア施設という様相だ。

 入院設備を持たず"都会のど真ん中"でデイケアを設ける、榎本クリニックの目指すところは何か? 榎本クリニック(池袋)の深間内文彦院長に話を聞いた。

 「榎本クリニックは各医院とも1階が外来。2階から上がデイナイトケアフロアとなっています(飯田橋は地下1階もデイナイトケアフロア)。各クリニック(5~8階建て)は、抱えている疾患や依存症の種類ごとにフロアが分かれています」

"薬物依存症"の患者と"うつで休職中"の会社員が拳を交える

 たとえば池袋は、「シルバーデイナイトケア」(認知症や老年期精神病)、「シニア・メンタル・デイナイトケア」(高齢でメンタルに問題も抱えている人が対象)、「アルコールデイナイトケア」(アルコール依存症)、「薬物・ギャンブルデイナイトケア」(薬物依存症・ギャンブル依存症)、「性依存症デイナイトケア」(性に関する依存)、うつ病で休職している人の生活リズムを整え、復職支援・再休職予防を行なう「うつ・リワークサポートセンター」を設けている。

 そのデイケアの特徴は、多彩なプログラムにある。たとえばメンタルデイナイトケアを見ても、運営ミーティング、クッキング、創作活動、軽スポーツ、芸術鑑賞、社会制度などを学ぶワーカー講座などのプログラムはさまざまだ。

 さらに特色となるのは、芸術行動療法。この時間は各セクションの垣根を払い、種目(ゲートボール・フットサル・卓球・アートものづくり・よさこい・和太鼓・コーラス・ボクシング・囲碁・将棋・エイサーなど)の中から好きなものを選び、専門家のもとで練習に励む。

 フロア混合のため、"薬物依存症の患者"と"うつで休職中のサラリーマン"がボクシングのリングで拳を交えることもある。

 イベントや行事も盛んだ。バス旅行、サマーフェスタ、クリスマス会などの催しの中で、特に圧巻なのは4院合同の大運動会。また、希望者が自己負担で参加する海外旅行のプログラムもある。過去には香港、ハワイ、ヨーロッパ、アメリカなどに出かけたという。

生活を整えることから治療は始まる

 「行事だけでなく、当クリニックのデイナイトケアの機能の根本は、『安全で安心して過ごせる生活空間を基盤とした治療と社会復帰の場』。すべては"生活を整えることから治療は始まる"という考えに基づいています。アディクション(依存症)の場合は、お金があるとお酒を飲んだり、パチンコに行ったりする人もいるので、本人の同意のもとに金銭管理をすることもあります」

 金銭管理は、お店に職員が同行し、その週に必要な食品・日用品を一緒に買いに行き、不要なものを買っていないか出納帳をつけてチェックすることもある。

 「お酒やギャンブルの問題を抱えている人は、生活保護の人が多い。保護費が入るとその日に全部使ってしまうケースがある。計画的な経済観念が欠落しているのをサポートするのです」

 生活保護の患者は、行政機関である福祉事務所からの紹介ケースが多い。働けなくなった原因には、アルコールなどの依存症がある。まずは、それを治してから社会復帰につなげていくという考えだ。

 デイナイトケア(9~19時)に通う人は、当然だが就労していない。そうした人にとっては、デイケアという場があることで一日の中味が大きく変わる。

 「デイケアに通わなければ、お金を使い果たして自宅にこもるか、あてもなく街をさまようことになる。それでは病気がますます進行してしまう。そこでデイケアという治療の場の必要性が生じているのです」

 榎本クリニックには、池袋だけでも毎日360名ほどのメンバー(同クリニックでは利用者をこう称する)が通っている。これだけ多くの人が、このような生活の場を必要としている――。これも一見豊かで華やかに見える東京の側面なのだ。

深間内文彦院長インタビューバックナンバー(全4回)


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深間内文彦(ふかまうち・ふみひこ)

東京医科歯科大学大学院研究科修了。同大学難治疾患研究所准教授、国立大学法人筑波技術大学教授・保健管理センター長などを経て、2008年より医療法人社団榎本クリニック院長・理事、国立大学法人筑波技術大学名誉教授、日本女子大学カウンセリングセンター。
医学博士。精神保健指定医、日本精神神経学会認定精神科専門医・指導医、日本医師会認定産業医、精神保健判定医、日本外来精神医療学会副理事長。
主な著書に『かくれ躁うつ病が増えている』(岩橋和彦・榎本稔との共著、法研、2010)『うつ病リワークプログラムの続け方─スタッフのために』(うつ病リワーク研究会編、南山堂、2011)『「うつ」の捨て方』(山下悠毅との共著、弘文堂、2014)ほか多数。

深間内文彦(ふかまうち・ふみひこ)

榎本クリニック院長。医学博士。精神保健指定医、日本精神神経学会認定精神科専門医・指導医、日本医師会認定産業医、精神保健判定医、日本外来精神医療学会副理事長。東京医科歯科大学大学院研究科修了後、同大学難治疾患研究所准教授、国立大学法人筑波技術大学教授・保健管理センター長などを経て、2008年より医療法人社団榎本クリニック院長・理事、国立大学法人筑波技術大学名誉教授、日本女子大学カウンセリングセンター。主な著書に『かくれ躁うつ病が増えている』(岩橋和彦・榎本稔との共著、法研、2010)『うつ病リワークプログラムの続け方─スタッフのために』(うつ病リワーク研究会編、南山堂、2011)『「うつ」の捨て方─考え方を変えるために考える』(山下悠毅との共著、弘文堂、2014)ほか多数。

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