【ビジネスジャーナル初出】(2014年10月)
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名称が変わった「危険ドラッグ」だが、危険といわれても本当にどれだけ危険かは素人にはイマイチわかりにくい。とりわけ過去に「合法ドラッグ」「脱法ハーブ」などと言われてきたこともあり、本当のところどのようなものなのかは誤解も多いはず。現在危険ドラッグと称されているものは、かつて話題になったマジックマッシュルームなどのように陶酔感や意識高揚が得られる成分が含まれた植物などではない。
巷でひそかに売られている危険ドラッグとは、ほとんどが合成された化学物質を乾燥した植物と混合しているものだ。ユーザーはこれをタバコのように火をつけて吸引するのである。化学物質にはいろいろあるが、主たるものは合成カンナビノイドと言われるもの。もともとカンナビノイドは大麻草に含まれる物質で、実は合成カンナビノイドの多くは製薬企業による鎮痛薬などの研究開発段階で発見されている。
ただ動物実験などでの評価から、これらの多くは毒性、すなわち副作用などで人体への使用はあまり適さないものと判断されたため、合法的な医薬品として製品化にまでは至らなかったものだ。ところが今後の研究開発の進展次第では製品化も可能かもしれないとして、多くは製薬企業の化合物ライブラリーなどに眠ったまま。それらの物質の化学構造式などの情報が外部に流出し、悪用されているのだ。つまり現時点では多少の工夫はしてもヒトに投与するのは明らかに有害と判断されたものばかりなのだ。
●救急搬送されても成分不明では治療も不可能
合成カンナビノイドについては、一部についてその依存性が通称・CPP法と呼ばれる方法により動物実験で評価されている。この方法は長方形の箱を白と黒の2種類で塗り分けたものを用意。そこで例えば1週間、箱の黒塗り部分で合成カンナビノイドをマウスに与え続け、一方で白塗りの部分で全く無害のものを別のマウスに与え続ける。
その後に何も与えない状態でこれらのマウスをこの箱に一定時間放置し、マウスがどちらの色の部分にどれだけの時間居続けたかを数値化して評価する。単純にまとめると合成カンナビノイドを投与され続け、意識高揚などを得たマウスは黒塗り部分の方に移動し、そこでとどまり続けるという結果になった。この評価方法によると、合成カンナビノイドは通常の大麻の10~20倍の依存性を示すことが分かっている。
また、ヒトの細胞などを使った実験から、合成カンナビノイドは細胞の自殺死といわれるアポトーシスを引き起こすことも判明している。このためヒトの神経細胞などに空洞化を起こしたりもする。いずれにせよ危険極まりない化学物質であることは明らか。
今回の取り締まり強化の結果、製造・販売する側は、化合物の化学構造などを変えた新たな化学物質を世に送り出してくるだろうと予測されている。しかも、これはあくまで売ろうとする側が法律の規制を潜り抜けるために合成するものであって、当然ながらヒトでどの程度有害であるかを動物実験などで調べているわけではない。意識高揚は得られるけれど、ヒトに対する有害性はほどほど、などという悪事なりの匙加減をしているわけではない。結果として、今後登場してくる新種の危険ドラッグの中には、たった1回の吸引だけでもショック死に至る可能性がある化合物さえ登場しかねないのである。
しかも、これらの物質はほとんどの場合、具体的にどのような成分なのかは分からないため、吸引直後に体調が急変して医療機関を受診しても、医師側は通り一遍の治療しかできず、救命が手遅れになっても不思議はない。遊び気分や好奇心でちょっと手を出す程度でも危険極まりない―。そう肝に銘じるべきだ。
(文=チーム・ヘルスプレス)