復帰への意欲が綴られている公式サイト
先日、アニメ映画『もののけ姫』の主題歌で知られる歌手の米良美一さんが昨年末、くも膜下出血で倒れて緊急入院・手術していたことが発表された。現在は復帰を目指してリハビリを行っているという。
米良さんは昨年12月、鹿児島での講演会から帰京した翌日の昼頃、自宅でくも膜下出血を発症し、倒れているところをマネジャーに発見された。至急、都内病院に搬送されて緊急手術した。
その後、水がたまって脳を圧迫する「水頭症」の後遺症を取り除くため、管を挿入して水を抜く「シャント挿入手術」を1月中旬に受け、3月末に退院した。
米良さんの公式サイトには、「経過もよく、秋に予定されているコンサートに向けて元気にリハビリに励んでいる」と、復帰への意欲が綴られている。
米良さんは、生まれつき骨がもろい「先天性骨形成不全症」の難病を患いながらも、1994年に洗足学園音楽大学(神奈川県)を首席で卒業。96年にCDデビュー、翌年に『もののけ姫』の主題歌が大ヒット。世界的なカウンターテナーとして音楽活動のほか、最近では講演会などでも全国を飛び回っていた。
2、3万人に1人とされる先天的な疾患「骨形成不全症」は、少年期に成長障害などが出る。米良さんはこの難病のため、背が伸びず骨も弱く、15歳までに30回近くも手足を骨折。周囲の好奇の目にさらされ、いじめや差別に遭ったこともあるという。
昨年8月には、神奈川県川崎市の講演で「難病や障害は直視することで少しずつ克服できる」と、ハンディを抱える人らにエールを送っていた。
くも膜下出血から復帰した星野源さんは一時「自殺願望」も
くも膜下出血に倒れた有名人は少なくない。2014年、俳優の田宮五郎さん(享年47歳)がくも膜下出血のため都内の病院で死去している。
2011年には、歌手のKEIKOさんもくも膜下出血で倒れた。夫である音楽プロデューサーの小室哲哉さんが救急車を呼び、適切な治療を受けたことで一命を取り留めた。
シンガーソングライターや俳優として活躍する星野源さんも、くも膜下出血の経験をもつ。星野さんは2012年12月、楽曲制作とレコーディングが終わった直後、スタッフ皆で拍手をしている中、急に倒れて病院に救急搬送された。
医師には「後遺症の可能性も含め全快は難しい」といわれるほどの重症。術後は神経が過敏になり、「病室の窓から飛び降りたい、早く死んでしまいたい」という自殺願望まであったという。その後、再発して2度目の手術を受けている。
危険因子は「喫煙・高血圧・大量の飲酒・感染症・肉親に患者がいる」
"くも膜"とは、脳や脊髄を守るための膜のひとつで、その下に張り巡らされた血管が切れるとくも膜下出血が起こる。ほとんどの原因は、脳動脈瘤の破裂によるものだ。
症状は、ハンマーで殴られたような強烈な頭痛や嘔吐、血圧上昇などが特徴的だ。頭蓋の内圧が高くなり、十分な血流を脳に送ることができなくなり、脳の機能を損なうことがある。
治療には、脳動脈瘤の根元をクリップで挟むクリッピング術と、動脈瘤の中にコイルを詰めて血液の流入を防ぐコイル塞栓術がある。クリッピング術は頭蓋骨の一部を取り除いて行う手術で、コイル塞栓術は太ももの付け根にある血管からカテーテル(細い管)を入れて行う。
くも膜下出血は、一般に40~50代に多く、女性の発症は男性の2倍。死亡率3割以上のこの病気、毎年1万3000人が亡くなっている。
脳ドックで未破裂の動脈瘤が見つかっても、適切な治療を受ければくも膜下出血のリスクを下げることはできる。発症する主な因子は、「喫煙」「高血圧」「大量の飲酒」「感染症」「肉親に患者がいる」だ。そのほかストレスや心労も要因になる。
今回の米良さんも、祖母と母がくも膜下出血で倒れた経験があるという。
40歳を過ぎて頭部や視覚に変調を感じたら一度受診を
頭痛の中で心配なものは、今まで感じたことがない激しい頭痛が急に起きて持続する場合と、めまいや歩行・意識障害など、他の症状を伴う場合だ。脳出血が起きている恐れがある。
すぐ動脈瘤を処置すれば助かるが、放置して破裂すると命にかかわる。特に慢性的な片頭痛で悩む人は、いつもと違う痛みには気をつけよう。「いつもの頭痛」と我慢した結果、亡くなるケースもある。
おかしいと思ったら、遠慮せずに脳神経外科や神経内科を受診したほうがいい。動けなければ即座に救急車を呼ぶことだ。
また、脳動脈瘤ができていると、眼球やまぶたを動かす動眼神経を圧迫されるため、物が二重に見えたりまぶたが開かなくなったりする。こうした症状がある人も注意が必要だ。
激しい頭痛だけでなく、少し頭が痛い、物が二重に見えるなど軽い症状の場合もある。40歳を過ぎて頭部や視覚に変調を感じたら一度、総合診療科や神経内科の受診を勧める。
(文=編集部)