【病気の知識】

未破裂脳動脈瘤

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監修:高橋伸明/福岡記念クリニック院長・脳神経外科医
  :鈴木龍太・鶴巻温泉病院 院長/脳神経外科医


どんな病気

 皆さんは、くも膜下出血という病気を聞いたことがあると思います。新聞の死亡欄でもよく見かけますし、ご家族や友人や芸能人でくも膜下出血になって亡くなったり、寝たきりになった方もいらっしゃると思います。このことからも分かるように、くも膜下出血は重篤な病気です。発症するとおよそ3分の1の方が死亡し、3分の1の方が障害を残しますが、残り3分の1の方は元気に社会復帰することができます。

 くも膜下出血は、中年以上の人では脳の動脈にできた脳動脈瘤のが破裂し、出血して起こるものです。未破裂脳動脈瘤は、40歳以上の中高年の5%以上、70歳以上では10%を超えるというデータもあります。また家族の2親等以内にくも膜下出血の人がいた場合は10%以上の保有率になります。

 くも膜下出血は、中年以上の人では脳の動脈にできた脳動脈瘤、若い人では生まれつき持っている脳動静脈奇形が、破裂し出血して起こるものです。脳動脈瘤は、よほど大きくなって周囲の組織を圧迫しない限り、何の症状もありません。ですから、元気な人でも脳動脈瘤を持っている人がいることになります。

 以前は脳の血管を見るための検査(脳血管造影)は非常に大変な検査でしたので、何らかの病気で脳血管造影をして、偶然、破裂していない脳動脈瘤(未破裂脳動脈瘤)が見つかることがありました。20年ほど前からMRI(核磁器共鳴装置)が臨床に応用され、詳細な脳の画像だけでなく、MRAという方法で脳血管も簡単に診ることができるようになりました。それ以後、脳の検査でMRAを撮ったり、脳ドックでMRAを行ったりした時に思ったよりも多くの人に未破裂脳動脈瘤があることが分かってきました。

どんな症状

 脳動脈瘤は破裂しない限り、ほとんどの例で症状はありません。ただし、脳動脈瘤が大きくなると、周りの組織を圧迫して症状を出す場合があります。内頚動脈後交通動脈分岐部にできる脳動脈瘤は、少し大きくなったり、破裂する前触れとして動眼神経を圧迫するので、片目の瞼が開かない(眼瞼下垂)、物がダブって見える(複視)、瞳孔が開いてしまって目がぼけて見にくい(散瞳)といった症状を起こします。

 視神経の側にできる脳動脈瘤は、大きくなると視神経を圧迫するので、視野の一部が欠けたり(視野欠損)、片方の目の視力が落ちたりします。このような場合に眼科に行かれることが多いのですが、これは脳神経外科で検査をして、場合によっては脳動脈瘤が破裂しないようにする手術が必要になります。

 脳ドックの調査などをまとめてみると、未破裂脳動脈瘤は40歳以上の中高年の5%以上の人が持っていると考えられます。70歳以上では10%を超えるというデータもあります。また家族の2親等以内にくも膜下出血の人がいた場合は10%以上の保有率になり、家族で同じ病気になる確率が高いといえます。

 問題は未破裂脳動脈瘤があると必ず破裂するのかということです。このことについてはっきりしたデータは未だありません。単純に考えると、日本人の40歳以上の人口が約7500万人(2013年人口動態統計)で、その内5%の人、つまり350万人の人が未破裂脳動脈瘤を持っていると想定できます。

 日本のくも膜下出血の発生は年間、人口10万人に対し10〜20人といわれており、年間多くて2万人が発症します。このことから考えて40歳以上の未破裂脳動脈瘤を持っている人の0.5〜1%程度の人が1年の間に発症すると考えられます。

 未破裂脳動脈瘤の破裂率についてはいままでいろいろな報告がありますが、年間0.05〜2%と報告されており、未だはっきりしたことがいえません。しかし100人に1人前後が1年間に破裂すると考えていいと思います。つまり現在40歳の人が未破裂脳動脈瘤を持っていたとし、80歳まで生きるとすると40年間あるので、これからの人生の間に40%の確率でくも膜下出血になる可能性があるということになります。

 破裂が若い時に起こるか80歳近くなって起こるかはだれにも分かりません。小さい脳動脈瘤は破裂しにくいと考えられています。破裂しやすい脳動脈瘤は5mm以上の大きさ、不整形のもの、若い人の家族性脳動脈瘤、多発脳動脈瘤、脳底動脈瘤などです。
 
 UCAS japanといって日本脳神経外科学会が主体となって進めている未破裂脳動脈瘤の悉皆調査(すべての例を悉く集めて調査する)が、1999年より3年間計画で厚生科学総合研究としてスタートしました。現在、基礎的アンケート終え、2001年1月より日本全国脳神経外科学会認定施設を中心に前向き調査を開始しています。

 本調査の主目的である日本における未破裂脳動脈瘤の自然歴についての報告が、2012年6月28日発刊の「New England Journal of Medicine」誌に掲載されました。ここに報告させていただきます。

主な知見は
①日本において治療されていない未破裂脳動脈瘤の破裂率は年0.95%であった。
②破裂は小さな動脈瘤でも発生するが、大きな動脈瘤ほど破裂の危険性が高かった。
③前交通動脈、内頸動脈後交通動脈分岐部の動脈瘤は中大脳動脈の動脈瘤より破裂率が約2倍高かった。またこれらの部位の動脈瘤は比較的小さなものでも破裂率は年0.5%以上であった。
④不正な突出(blebまたはdaughter sac)のある動脈瘤はないものに比較して約1.6倍の破裂率であった。

 その他、高齢者になるに従って大きな動脈瘤が多くなることなどが解明されました。今後、治療成績や自然歴サブ解析などを発刊予定です。
 
 脳動脈瘤になり易い人がいます。前述したように近い家族が脳動脈瘤を持っている場合も多いのですが、1親等以内の2人以上に脳動脈瘤がある場合は、一般の人の4倍程度の頻度になるという報告もあります。同じ家族歴のある人でも、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙などの危険因子を持つ人のほうが動脈瘤の保有率は高くなります。つまり、遺伝的要因もありますが、生活習慣もその発生に関わることが分かります。その他にも遺伝的に腎臓にたくさんの嚢胞(液体の入った袋)ができる多発性嚢胞腎では10%程度、40歳以下の若い時に脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血になったことのある人も再度新しい脳動脈瘤ができやすいといわれています。

どんな診断・検査

 未破裂脳動脈瘤は、検査で行ったMRIや脳ドックのMRAで分かる場合がほとんどです。大きな動脈瘤は、通常のCTやMRIでも分かることがあります。MRAで脳動脈瘤が疑われた場合、正確な情報を得るためには脳血管造影か3D-CTAが必要です。脳血管造影は、通常、股の動脈から針を刺してカテーテルという細い管を脳の血管に送り込んで、脳血管をいろいろな方向から造影するものです。この検査で脳動脈瘤の場所・大きさ・形・周囲の血管との関係が分かります。3D-CTAは、造影剤を末梢静脈から注入し、CTで脳血管を立体的に簡単に描出します。これらの検査は、手術をする場合には必要な検査です。最近ではほとんどが3D-CTA検査を行います。脳血管造影は血管内手術や脳動静脈奇形のガンマナイフ治療時に行い、検査の頻度が極端に減少しました。

どんな治療法

 では、未破裂脳動脈瘤が見つかった時にどうしたらいいのでしょうか。対応は大きく2つに別れます。第1の選択は「何もしない」という選択、第2は「脳神経外科で手術をする」という選択です。

 脳神経外科で行う手術は、ネッククリッピングという方法です。全身麻酔下で頭蓋を開け脳動脈瘤を直接出して本管の動脈から動脈瘤が出ている場所(ネック)を金属製のクリップで挟んで、動脈瘤に血液が行かなくなるようにする手術です。動脈瘤に血が行かなくなれば出血することもありません。くも膜下出血を予防するためには、この方法が最も有効で完全です。しかし、この方法は全身麻酔の危険と手術の合併症の危険があります。手術の合併症は死亡が1%、後遺症が残るものが4%程度と考えます。日本脳ドック学会のガイドライン2008と脳卒中ガイドライン2009では、手術を勧める例は大きさが5〜7mm以上、患者の余命が10〜15年以上ある場合、重篤な合併症がないものに手術を勧めることになっています。実際は、場所や形で手術ができないものもあり、また10mm以上の脳動脈瘤や脳底動脈瘤では手術合併症が高くなるので、大きさと年齢だけで決められるものではありません。

 治療法のもう一つの選択として、血管内手術という方法があります。これは血管造影と同じように股の動脈からカテーテルを入れ、これを脳動脈瘤の中まで持っていってプラチナでできた細いコイル(GDCコイル)を脳動脈瘤の中に巻いていって、脳動脈瘤の中をコイルでパックする方法です。コイル塞栓術ともいいます。この方法は局所麻酔で行えますが、通常は全身麻酔で行います。股の動脈に針を刺すだけですから、ネッククリッピングよりも患者さんにとっては負担が少ない方法だと考えられます。

 コイル塞栓術は、直接手術が難しい場所の脳動脈瘤や、重症者、高齢者の場合に多くおこなわれます。最重症例では、症状が改善すれば手術を行いますが、そうでなければ保存的治療を行います。水頭症に対する処置をして待機することもあります。待機している間に症状が改善する場合は、早ければ72時間以内、それ以降に改善が見られた場合は2週間待機してから手術を行います。血管内手術の時期に関してはその限りではありません。

 2014年、アメリカで破裂脳動脈瘤の長期生存者の追跡試験を行いました。破裂脳動脈瘤に対する血管内コイル塞栓術と開頭クリッピング術の比較試験(ISAT試験)の18年間を追跡した結果、対象者1644人の10年時生存率・日常生活自立率は、コイル群がクリッピング群より勝っていました。

 また、この方法でも合併症が起こります。脳動脈瘤に直接カテーテルやコイルを入れるために、塞栓術中に脳動脈瘤が破裂することがあります。この確率は4〜5%と考えられます。脳動脈瘤が破裂すると、くも膜下出血になります。小さな穴の出血は、そのままコイルで塞げますが、そうでない場合は、結局、開頭してネッククリッピングやその他の処置が必要になることがあります。他にも血管閉塞やコイルが別の場所へ行ってしまう場合など考えられる合併症は、現在のところ全体で数%程度になると思われます。以前はネッククリッピングがやりにくい例として高齢者や全身合併症があり、全身麻酔がかけにくい例などに血管内手術が優先されていましたが、現在では未破裂脳動脈瘤の治療の主流は血管内手術です。

 脳ドックガイドライン2008と脳卒中治療ガイドライン2009では、未破裂脳動脈瘤の治療を次のように記しています。

 年齢・健康状態などの患者の背景因子、脳動脈瘤の大きさや部位・形状などの病変の特徴、未破裂脳動脈瘤の自然歴、および施設や術者の治療成績を勘案して、治療の適応を検討することを推奨する。原則として患者の余命が10〜15年以上ある場合に、以下の病変について治療を検討することを推奨する。①大きさ5〜7mm以上の未破裂脳動脈瘤、②5mm未満であっても、A症候性の脳動脈瘤、B後方循環、前交通動脈瘤、および内頚動脈・後交通動脈部などの部位に存在する脳動脈瘤、Cドームとネックの比が大きい・不整形・ブレブを有するなどの形態的特徴をもつ脳動脈瘤。

 なお、治療の適否や方針は、十分なインフォームドコンセントを経て決定されるべきであります。このように重大な決定には、その人の人生観や年齢・生活歴などが関わってきますので、医師が決して押し付けるものではないと思います。

 未破裂脳動脈瘤が見つかった時に、すぐに手術をしないと大変なことになると言う医師もいますが、そんなことはありません。しかし、一旦治療をしないと決めた人でも暫くすると心配で夜も寝られないのでやっぱり手術をしてくださいという方もいます。ご自分でよく考えて十分納得した上で、どうするかを決めてください。もし様子を見るという選択をした場合は、喫煙・大量の飲酒を避け、血圧や食生活に気を付けましょう。半年から1年に一回程度はMRIか3D-CTAの検査をお勧めします。

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