©Walt Disney Animation Studios
先日、受賞作が発表された第87回アカデミー賞。長編アニメ部門に高畑勲監督の『かぐや姫の物語』がノミネートされ注目を集めたが、惜しくも落選。受賞作はドン・ホール監督の『ベイマックス』。心優しいケア・ロボットと孤独な少年の絆を描いた冒険物語だ。日本でも昨年12月に全国540スクリーンで公開され、興行収入75億円を超えるロングヒットとなっている(現在も公開中)。
舞台は、東京とサンフランシスコをミックスした「サンフランソウキョウ」。謎の事故で最愛の兄タダシを失った天才少年ヒロ。深く傷ついたヒロを救ったのは、人間の心と体を守るために兄が発明したケア・ロボット、ベイマックスだ。兄の死の真相に迫る二人の前に、手強い仮面の敵が立ちはだかる。ケア・ロボットは、人を傷つけられない。だが、ベイマックスはヒロを守らなければならない。兄がベイマックスに託した使命とは何だったのか......?
原案は6人の日本人スーパーヒーローを主人公にしたアメリカンコミック『Big Hero 6』。ただし、映画化に際し設定は大きく変更され、ベイマックスはドラゴン風の顔を持つ人造生命体から、愛らしいケア・ロボットに置き換えられた。
「こんにちは、私はベイマックスです」とやさしく語りかける
ベイマックス、白く柔らかい体の内部に空気が充填され、丁寧な口調で会話をする。1万通りもの医療データカードが挿入され、頭部のレーダーでスキャンした人の心拍数・脳波・血液型などを瞬時に分析。脳内伝達物質の量をスキャンし、相手のストレスや感情を把握する。両手をこすり合わせてAED(自動体外式除細動器)を発動させ、水中で浮き袋になり人々を救出する。ボディを発熱させ、体が冷えた人を温める。高性能かつマシンの冷たさを感じさせない、究極の医療・介護ロボットといえるかもしれない。
動力はリチウムリオン電池。誰かがケガをした時は、「痛い」の声に反応し、自動的に体内の空気が膨らむ。「こんにちは、私はベイマックスです」とやさしく挨拶してくれる。治療後、相手が「もう大丈夫よ」と言えば自動停止。電池切れが近づくと、酔っ払いのようになる。大きな体格にしては短足なので、動きはのろい。骨格は頑丈なカーボンファイバー製。最大400kgの物体を持ち上げるタフマンだ。
人を傷つけることを禁じられているので、戦闘能力はない。だがヒロは、仮面の敵と闘うために、空手の戦闘データカードをベイマックスに挿入する。パワードスーツを着たベイマックスは、より高性能なレーダーや飛行能力を装備したファイティング・ロボットに変身するが......。
超能力を備えたヒーロー・ロボットが悪を倒す大活劇ではない。ヒロの少年らしい勇気といちずさ、ヒロを見守る友人や家族の愛情、ベイマックスの温かさと愛嬌をふりまくアクションがポイントだ。東京の古い街並や立体看板。昭和の懐かしい風景と匂い。神社の鈴をモチーフにしたベイマックスのアタマが微笑ましい。『ベイマックス』は、忘れかけた思い出にポッと火を灯してくれる、ほのぼのとした友情物語だ。
(文=編集部)