HALを開発したCYBERDYNE(サイバーダイン)株式会社のホームページ(http://www.cyberdyne.jp)より
2013年から、HALという日本製のロボットが、ドイツで医療機器として公的労災保険の適用を受けている。これは足に装着するタイプで、脳卒中や脊髄損傷で足が不自由になった患者の足の動きを助け、リハビリの効果を高めるものだ。
開発したのはCYBERDYNE(サイバーダイン)株式会社。筑波大学大学院システム情報工学研究科・サイバニクス研究センターセンター長を務める山海嘉之教授の研究成果を実用化し、社会貢献を目指して、2004年6月に設立された。
人間は「歩こう」とする場合、まず脳が足などの筋肉に信号を送る。健康な人は、この信号を受け取ったあちこちの筋肉がそれぞれ必要な動きをして「歩く」ことができる。HALは、皮膚からこの微細な信号を感知し、脳がさせようとしている動きをサポートする。ロボットといっても形状は、剣道の防具みたいに手足などにつけるパーツみたいなものだ。
『2001年宇宙の旅』に登場していた
ところで「HAL」といえば、SF愛好家や映画マニアなら気になる名前である。『2001年宇宙の旅』に登場する、宇宙船を制御するコンピュータの名称なのだ(正確にはHAL9000)。映画監督S・キューブリックと、SF作家A・C・クラークがアイデアを出し合って作ったこの映画の中で、コンピュータHALは赤いランプを点滅させながら、乗組員たちと仲間のように話す。映画は1968年4月に公開され、小説は同年7月に出版された。どちらもSF作品の傑作だ。
人間のように感情を持つコンピュータHALは、当時の人々に強い印象を与え、こんなうわさ話を流布した。
「HALというのは、IBMの一歩先を行くという意味。アルファベットでHはIのひとつ前、AはBのひとつ前、LはMのひとつ前だろ。コンピュータ界の巨人に一矢報いようといことだ」
A・C・クラークはこの説を認めなかったが、多くの人の記憶に残った。
ヒーローから介護用品まで
そして21世紀になって、装着型ロボットHALの登場である。現在使われている医療分野だけでなく、さまざまなシーンでの活用が予想されている。
たとえば、災害現場で救出にあたる隊員が、全身に装着ロボットHALを身につければ全ての動きがパワーアップして、岩などを持ち上げたり、けが人を背負って崩れる土砂から走って逃げたりと、SF映画のヒーロー並みの活躍ができるかもしれない。また腰と膝が弱ったお年寄りは、腰と足の筋肉をサポートする装着ロボットHALをつければ、らくらく歩けるようになるだろう。それから、介護用品売り場には、腰用HALが売られ、在宅介護の必需品となるかもしれない。介護で最も痛めやすい腰をサポートし、腰痛から守ってくれるのだ。
それにしても気になるのは、HALの名前の由来である。公式には、Hybird Assistive Limb(ハイブリッドな補助する手足)の頭文字と発表されている。『2001年宇宙の旅』へのオマージュも、巨人への対抗意識も表明されてはいない。
しかし、さらに驚くべきことに、この装着型ロボットHALを開発・生産する会社は、先述したように「CYBERDYNE(サイバーダイン)」というのだ。これは、SFロボット映画の『ターミネーター』シリーズに登場するハイテク企業の名称と同じだ。こちらも公式発表では、サイベネティックス(生物と機械における制御と通信を研究すること)+ダイン(力の単位)=サーバーダインの造語だということで、映画との関係は認められていない。
ただ、「サイバーダイン社がHALの製造を始めた」と聞けば、映画ファンなら、ちょっと興奮するか、にやにやせずにはいられないのだ。
(文=編集部)