高速道路を逆走するその理由は......
2015年1月7日、80代男性が軽自動車で首都高を逆走し、大型トラックとトレーラーに次々と衝突する事故を起こして死亡した。この男性は、前日から行方不明になっていた認知症の患者だった。
高齢ドライバーが関与する交通事故は年々増加し、2013年は全体の19.2%を占めた。これは10年前の約2倍だ(警視庁交通総務課統計)。
年を取れば視力、瞬発力、運動機能が低下し、運転の危険度は高まる。そのうえ認知症を患えば、判断力が乏しくなるのは明白。認知症の主症状は、もの忘れが激しくなる記憶障害や、「いつ・どこ・だれ」などがわからなくなる見当識障害だ。
いざハンドルを握って出かけても、「どこへ何のために車を走らせているのか?」「ここがどこなのか」わからなくなる。頭が混乱し、ブレーキとアクセルがわからなくなる――。
認知症になって、赤信号や反対車線、高速道路の逆走の分別がつかなければ、車は走る凶器だ。ならば「運転させなければいい」と考えるのが当然だろう。だが、当人にはそのことが理解できない。認知症患者の多くは、病気の自覚「病識」がないのである。
警察庁は、2015年1月26日召集の通常国会に提出する方針のもと、75歳以上のドライバーの認知機能検査を厳格にする道交法改正案をまとめた。しかし、高齢ドライバーの事故をどこまで食い止められるかは疑問だ。3年毎の免許更新では、日々進行する認知症の実態に沿っていない。
認知症となった親が運転をやめてくれない
ケース1 運転が大好きなKさんは、息子夫婦の心配をよそに、毎日のように車で出かけている。行き先はいつものスーパーマーケット。半年前から車体をぶつけて帰ってくるようになった。気づけば車体は傷だらけ、前後のバンパーにも大きなへこみができている。いくらKさんに聞いても、原因はわからないという。
人身事故など起こされては一大事と、息子夫婦は口酸っぱく「運転をしないよう」言うが、病識のないKさんの怒りを買うだけ。車の鍵を隠してみると、「盗んだ鍵を返せ」と怒声を浴びせる始末である。来年の免許更新まで、悠長に待っていられない。息子夫婦は、専門家の助言に従い車のバッテリーを外した――。
ケース2 タクシードライバーだったMさんは、運転能力は維持しているが、出かけると帰宅できなくなることが何度か続いた。国道を走り、他県まで行ってしまったこともある。娘が訳を聞いても、要領を得ない。
今年に入り、娘が付き添って免許証を返納。マイカーも処分した。本人も納得していたはずなのに、Mさんはあいかわらず、家族の車を使って出かけようとする。その後、無免許運転が何度か続いた。注意するたびに「そうだった」とうなずくが、同じことの繰り返し。そこで、ガレージに暗証番号式の錠前を取り付けると、Mさんは困って娘に連絡を寄こすようになり、無免許運転は回避できている。
これらは、運転にこだわる認知症患者のほんの一例だ。高齢の親がいる場合、運転が日常化している人ほど、認知症を患う前に免許証を返納し、運転習慣を取り除いておくのが、いまのところ真の予防策といえる。
(文=編集部)