社会問題となっているのは職場でのモラハラ ghostrider/PIXTA(ピクタス)
女優の三船美佳さんとロックバンド「THE 虎舞竜」の高橋ジョージさんが、離婚に向けて係争中だ。2011年11月22日の「いい夫婦の日」には、パートナー・オブ・ザ・イヤーにも選ばれている2人。周囲からは幸せそうに見えたその裏で、いったい何があったのか......。
離婚を求めているのは美佳さん。一部の報道によると、高橋さんの度を越した束縛に、美佳さんが耐えられなくなったのだとか。具体的には、「16年余りの結婚生活で、美佳さんは高橋さんを家に残して出掛けることができず、高橋さんが家にいない時だけ外出が許された」といい、「『お前は人間としての価値もない、生きていく資格もない』などと、連日、人格を否定するような言葉を浴びせられていた」とも報じられている。
係争中なので本人は多くを口にしないが、美佳さんにとっては、そのようなモラルハラスメント(モラハラ)が離婚を決意した理由だったようだ。一方の高橋さんは、そのような事実はなかったと否定している。
モラハラとは、その名の通り「モラル(道徳)による精神的な暴力、嫌がらせ(ハラスメント)」のこと。フランスの精神科医、マリー=フランス・イルゴイエンヌよって提唱された。殴る・蹴るなどの肉体的な暴力と違い、言葉や態度などによって行われる精神的な暴力は、なかなか顕在化しにくい。そのため、モラハラによるストレスが原因で、気づかぬうちに心身に深刻な健康被害を生じさせてしまうことがある。もちろん、夫婦間のモラハラは、立派な「ドメスティック・バイオレンス」だ。
いま深刻な社会問題となっているのが、職場でのモラハラだ。
「仕事ができる、できないの前に、人間として価値がない」「上司だというけ、どオレらがいないと何もできないじゃん」......。上司や部下から、陰で人格を否定するような言い方をされていたことはないだろうか? あるいは露骨な無視をされたり、「ハゲ」「メタボ」「ブス」などと肉体的な欠陥を嘲笑われたり、「あいつの奥さん、**だってよ」と家族の悪口を言われたり......。その人の尊厳を傷つけ、同僚に悪口を吹き込むことで孤立させ、最悪の場合は標的にされた人がうつ病などを発症し、退職に追い込まれてしまうケースも少なくない。
少し前まで、上司がその立場を使って部下を抑圧する、パワーハラスメント(パワハラ)が社会的な問題として喧伝されたが、いまでは立場の上下は関係なく、人格否定ともいえるレベルのハラスメントが横行しているというのだから、世の中いったいどうしてしまったのか......。
偉くなるほどメンタルは良好!?
ちなみに、職場のストレスで心を病んでしまう原因は、モラハラだけではない。人事異動で管理職となったことが引き金になり、心身の健康を害するケースも増えているという。
希望も新たに中間管理職になったのはいいが、他部署や取引先との折衝など面倒ごとは増え、経費節減の上ノルマ達成、成績アップを求められ、権限は少ないのに責任ばかり増える。さらに部下は思うように動いてくれない、上司にはいいように使われる、上司と部下の間で板挟みになる。いわゆるサンドイッチ症候群だ。
ここに面白い報告がある。財団法人日本生産性本部メンタル・ヘルス研究所によると、多くの場合、「一般社員」「係長」「課長」「部長」と上位になるにつれ、メンタルヘルスは良好になっていくのだという。つまり、メンタルヘルスは、仕事の指示・命令権や自由裁量権の有無と関係がある。
となると、中間管理職の時期をなんとか切り抜け、もっと自由裁量権のある役職をゲットすれば、思い煩うことも少なくなり、のびのびと仕事ができることになる。身も蓋もない話になってしまうが、心身の健康を維持するには「偉くなるしかない」ということか!?
出世なん無理、あるいは、それまで待てない、という人は、中間管理職という立場を逆手に取ってみるのもいいだろう。面倒な仕事は部下に振り、平社員よりは発言力があるのだから思い切ったプランなどを主張してみる。もし何かがあったとしても、上司に責任を押し付けて逃げられる。ただし、パワハラにならないよう注意することは言うまでもない。
メンタル・ヘルス研究所は、こうも言っている――。
たとえば、「上司との関係が疎遠だと感じる」という課長がいたとする。すると、その部下の係長や一般職の社員にまで組織の方針や戦略が十分に伝わらず、目標や役割、責任などを理解せずに、やみくもに業務を遂行していることになる。このような風通しの悪い職場は、生産性も悪く、スタッフのメンタルにも悪影響を及ぼす。
その逆手をとればいいということだ。中間管理職は上司とのコミュニケーションを円滑にする必要がある。たとえ嫌いな上司でも、だ。そしてもちろん、部下とも十分なコミュニケーションをとることが自分や周囲のメンタルヘルスを守ることにつながる。時には仕事帰りの一杯や週末ゴルフなど、昭和的な職場の付き合いを復活させてみてはどうだろうか。
モラハラ、パワハラ、さらにはセクハラ(セクシャルハラスメント)も横行するストレスフルな現代社会で、自分の立場はもちろん、心身の健康を守るのは容易ではない。三船美佳さんの離婚の決断も、苦渋の防衛策だったのだろう。まずは、コミュニケーションを円滑化する努力、それでもだめなら社内のコンプライアンス部門や公的な機関に相談すること、もし心身に異常が生じるようであればすぐに専門医の診断を受け、それでもダメなら、そんな会社、辞めてしまったほうがいい。心の病をこじらせ、最悪の事態に陥ってしまうよりは、ましだ。
(文=編集部)