内視鏡や腹腔鏡の手術の増加とともに意外な問題 立体視できない医師がいたら......

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もし立体視できない医師がいたら......

 厚生労働省は2014年12月、群馬大学医学部附属病院で腹腔鏡を使った肝臓の切除手術で患者8人が死亡した問題などを受け、同院に医療法に基づく立ち入り検査をする方針を決めた。

 塩崎恭久厚労大臣も「尋常な事態ではない」とコメント。厚労省は、立ち入り検査の上で、同病院について、高度医療を提供し診療報酬が優遇される「特定機能病院」の承認取り消しも含めて対応を検討するという。

 同病院では、亡くなった8人のほかにも開腹手術でも過去5年間に10人が死亡。いずれも第2外科助教の男性医師が執刀しているという。

 腹腔鏡手術は、体に数か所の小さな穴を開け、カメラなどの器具を入れて行う。開腹手術に比べて体へのダメージが少なく、回復が早いため手術に伴う入院期間も短くなる。現在、一部のがんにも高度先進医療として応用されており、注目されているロボット手術などもその一つだ。

 いまや手術は、内視鏡や胸腔鏡、腹腔鏡などの小さなカメラを患部近くに入れ、メスも小さな穴から入れて患部を切除する鏡下手術が盛んだ。メリットばかりが大きくクローズアップされがちだが、術者には従来の手術とは全く異なるテクニックと特殊な器具を扱う習熟した技術が要求される。

 さらに、手術はモニターを見て行うため、立体感や遠近感が把握できなかったり、死角となる部位に危険なことが起こっていても気づかない場合がある。手術中に発生するあらゆる不測の事態に対応できる習熟した腕が必要なのだ。

立体視ができない医師がいるとどうなるか?

 モニターに頼る鏡下手術では、立体感に乏しく臓器の位置や術野の深さなども判断しづらい。そのため3D内視鏡なども開発されているが、現状は2Dの仕様が多い。

 脳は通常、テレビなど平面上の2D映像を見ても3Dに変換する機能「立体視」を持つ。両眼からの情報には視差があり、その差を脳で3Dとして変換し、景色の奥行きや物の立体感を感じ取っている。それには、私たちが生まれて以来、物の光や影などで立体を認識するという経験も大きく影響する。物体に当たる光と影を見て、この物体が立方体なのか球なのかを、瞬時に認識するのだ

 3D映像はその原理の利用だ。2本のレンズで撮影し、同時に2Dのスクリーン上に映写。特殊なメガネをかけることで、立体感を表現している。しかし、3D専用のメガネで映像を見ると、目の疲れや頭痛、吐き気などを起こす人がいる。これは両眼からメガネを通した別々の映像が入ることで脳が混乱して起きるのではないかといわれている。

 内視鏡などの鏡下手術では切除だけではなく、切除部分を縫うことも画面を見ながら行う。万一、この立体視ができない医師が手術を行った場合、大きなミスが起きることは容易に想像できる。

 一般的に斜視の人は立体視が難しいといわれているが、「斜視でない人でも先天的に立体視ができない人は一定の割合で存在する」と、ある医学部の教授は話す。モニター画面を使って実技を教えても、ある学生だけが失敗するので、さまざまな検査をしたところ、この学生は「立体視が困難」という結論に達したのだという。

 大型自動車免許や二種免許の更新では「深視力検査」が適正検査として行われている。これは、両眼による視覚情報を脳内で統合する機能の中でも高次な視力を問うものだ。危険が伴う大型車両の運転や、客の命を預かる二種免許では立体視が必須だからだ。医師にも、立体視の適性検査は行うべきではないだろうか。
(文=編集部)

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