インタビュー 出生前診断の正しい知識を 第4回 胎児クリニック東京 中村靖院長

出生前診断後の「妊娠の継続」か「中絶」かの決断は妊婦さんごとに異なる

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出生前診断後の「妊娠の継続」か「中絶」かの決断は妊婦さんごとに異なるの画像1胎児クリニック東京のカンファレンス室。産む/産まないの議論そのものを避けてはいけない

 もし、あなた、あるいはあなたの家族が妊娠をしていて、お腹の赤ちゃんに何らかの障害があることがわかったら、どうするだろうか?

 赤ちゃんが生まれてから、どのように生きて行けるのかを考えるのではないだろうか。教育はどう受けるのか。社会でどう生きていくのか。経済的にはどうなのか。そして、ビジョンが描けず愕然とするのではないだろうか。

 日本は、他の先進国に比べて、障害者の社会参加を推進し差別をなくすための法整備が遅れていると言われる。たとえば、学校では障害児が普通に受け入れられ健常児と共に学んでいたり、職場でも障害者が働いているのが当たり前であれば、産まない選択をする人はもっと減るかもしれない。

 出生前診断は、生まない選択を助長するものだから反対だという論調もある。しかし、本当は、障害者と健常者が共存する社会でないことが、生まない選択を助長しているのかもしれない。

「胎児診断」で助かる命が増える

「産まない選択については、簡単には結論がでない問題です。たとえば、アメリカでは、『命を奪うことであるからすべきでない』という意見と『女性の権利として認めるべきだ』という2つの意見があります。結論は出ないが、議論はします。日本では、議論そのものをしようとしない傾向があるように思います」(中村院長。以下同)

 ちなみに、日本の母体保護法では、分娩が身体的、あるいは経済的理由で母体の健康を害する恐れがある場合などに指定医師の判断の元で人工中絶が認められており、産まない選択が「女性の権利」とは考えられていない。

 出生前診断が、結論が簡単にでない問題を含んでいることは、長年、胎児と赤ちゃんを見守り治療してきた中村院長にはよくわかっている。その上で「助かる命が増える。やはりそこが、私の原点です」と、院長は「胎児診断」の意義は小さくないと考える。赤ちゃんの約2%は、各臓器の形態異常などで生まれてくるが、「胎児診断」を行えば、多くは前もって知ることができる。早くわかれば、治療できることも多い。

 その院長のひとつの夢は「胎児診断」が普及して、希望する人は誰でも受けられるようになることだ。

「現在は、『胎児診断』について知っている方、また年齢が高い方、不妊治療をされた方などが主に検査を受けておられます。また、近くに診断をできる施設がないことも多く、費用も高い。もっと若い方でも、どこに住んでおられる方でも、経済的に余裕がない方でも、希望される方はだれもが、『胎児診断』を受けられるような体制が整うことが望まれます」

 たとえば、イギリスでは、産まない選択についての議論は当然あるものの、妊婦さん全員が診断を受ける制度が整っている。日本で同じような制度を整えるためには、まず検査方法と診断基準の標準化が必要だと、中村院長は考えている。

「現在は、施設によって基準がまちまちです。これでは、同じ検査結果が出ても、場所によって診断が異なってしまうということになりかねません。いろいろご意見もあると思いますが、私はまず世界標準を作って、国ごとにどこまで利用するのかを決めていくというのがよいと考えています」

「早くわかれば、早く治せる」を追求し続ける中村院長の目は、一人でも多くの赤ちゃんを救うために、将来を見据えているのだ。

インタビュー第1回「出生前診断」は怖くない~妊婦さんとその家族のために正しい知識を~
インタビュー第2回ほとんどの妊婦さんが、出生前診断の正しい知識を持っていない
インタビュー第3回妊娠の継続か否かの決断は、ひとりひとりの妊婦さんで異なる
インタビュー第4回正しい知識を広め、希望者は誰でも「胎児診断」が受けられる社会を
 

出生前診断後の「妊娠の継続」か「中絶」かの決断は妊婦さんごとに異なるの画像2

中村靖(なかむらやすし)
順天堂大学医学部卒業後、同大学医学部附属順天堂医院で、超音波診断、合併症妊娠の管理を中心とした診療・研究に従事。3科(産婦人科・小児科・小児外科)合同の「周産期カンファレンス」において、草創期の中心メンバー。
2005年には順天堂大学医学部附属練馬病院の産科婦人科科長に就任、その後順天堂大学助教授(先任准教授)。2009年、米国留学(ボストン小児病院、シンシナティ小児病院、フィラデルフィア小児病院)。10年からは、ベルギー・ルーベンカトリック大学産婦人科で胎児治療の臨床・研究に携わる。同年、帰国後、茅ヶ崎徳洲会総合病院(現・湘南藤沢徳洲会病院)に、「胎児科」を新設。13年9月、よりきめ細かな胎児診療をアクセスしやすい都心で提供するため、胎児クリニック東京を開院。
一方、勤務医時代からタバコ対策・禁煙指導にも積極的に関わり、順天堂大学および附属病院の禁煙化に尽力。産婦人科分野の禁煙指導の中心者として、禁煙ガイドラインの作成にも参加。現在もNPO法人禁煙ネットで活動している。
臨床遺伝専門医、超音波専門医・指導医、産婦人科専門医、禁煙専門医、FMF(Fetal Medicine Foundation)認定妊娠初期超音波検査者。

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