『死ぬ気まんまん』(佐野洋子/光文社)
絵本作家でもあり、優れたエッセイストでもあった佐野洋子さんの遺作です。「何よりも命が大事だというのはおかしい」「私は闘病記が大嫌いだ。それから、ガンと壮絶な闘いをする人も大嫌いだ」という佐野さん。がんの再発を医師から告げられると、「これで老後の心配がなくなった」と、病院の帰りに自動車ディーラーに立ち寄り、高級外車のジャガーを衝動買い! がんが脳に転移した後、ガンマナイフ治療を担当された平井達夫医師との率直な言葉が飛び交う対談も集録されています。
『乳ガンなんかに敗けられない』(千葉敦子/文春文庫)
私の妻が乳がんを発症したのは1993年。彼女が「同じ乳がん患者の体験談を聞きたい」と言ったことがきっかけとなり、私は闘病記を探し求めることになり、最初に出会ったのが本書。ニューヨークを拠点とするジャーナリストとして活躍していた千葉敦子さんは、ある日、左乳房の上に固いしこりを発見。それが悪性と知ると、手術前にセミ・ヌード写真を撮り、闘病記録とともに公開しています。それは、「写真では確認できないほどのしこりでも、乳がんの場合がありますよ」という女性たちへの警告でもあります。千葉さんは1981年に乳がん発症以来、逝去されるまでの7年間に6冊の闘病体験記を出版しています。現在では数々の乳がんの闘病記が刊行されていますが、彼女の一連の闘病記が、そのさきがけとなりました。
『患者からのカルテ――乳癌で逝った私はうったえる』(佐原蓉子・佐原龍誌/ルック)
著者の佐原龍誌さんが、乳がんで亡くなられた姉・佐原蓉子さんの手記をまとめたもの。一人暮らしのまま48歳で亡くなった姉が、病室に数冊の手帳を残していた。死後、それを手にした弟は、自分が知り得なかった病に苦しむ姉の姿に動揺し、本書を出版しました。当初はエミール社から刊行されましたが、同社が倒産したため、同年、ルックより復刊。佐原さんの「姉の訴えを残したい」という思いが伝わってきます。
『女医が乳がんになったとき』(小倉恒子/ぶんか社文庫)
34歳の若さで発病し、手術、離婚、子育て、再発の不安を乗り越えて生きる女性医師の手記です。小倉恒子さんは東京女子医科大を卒業後、順天堂大学病院の耳鼻咽喉科に入局。2児の母でもある小倉さんは、乳がん発病後、左乳房を切除、術後5年目に同じく医師である夫から離婚を切り出され、術後13年目に骨転移が判明します。それでも小倉さんは、本業の耳鼻科診療を続け、他のがん患者を励まし、医療相談を続けられます。がん患者は「転移」を最も恐れますが、転移するから「がん」なのであり、だとしても、がんが転移したからといって人生を諦める必要がないことを教えてくれます。