母乳で肥満リスクを軽減! oksix / PIXTA(ピクスタ)
現代、さまざまな生活習慣病の危険因子として認知されている肥満。特に子どもの肥満については、ライフスタイルや食生活の変化とともに全世界で問題視されている。
そんな中、ニューヨーク・コーネル大学のステイシー・カーリング氏らのグループによる新たな研究論文が、2014年に発表された。母親が持ついくつかの要因によって、もともと「肥満になるリスクが高い」と考えられる赤ちゃんでも、一定以上の母乳育児の期間があれば太りすぎる可能性は低くなる、というのだ。
カーリング氏らは今回、595人の赤ちゃんを対象とし、出生時から2歳までの体重と身長を追跡して、それぞれの成長の軌跡と母乳育児期間を比較した。
一般には、成長に伴うBMI(肥満度を示す体格指数)の増加速度が平均よりも速い赤ちゃんは、肥満のリスクが高いと考えられている。体重増加のリスクを高める因子としては、母親の「肥満」「低学歴」「妊娠中の喫煙」などが挙げられる。体重増加リスクが高いとされた赤ちゃんのうち約59%は、母親がそれらの因子のうちの1つ以上にあてはまった。一方、リスクの低い赤ちゃんでは、1つ以上の因子があてはまる母親は約43%だった。
こうした肥満リスクの高い赤ちゃんについて分析すると、母乳育児期間が2カ月未満の場合は、4カ月以上の場合に比べて体重が増えすぎる可能性が2倍になったという。わずか数カ月の違いでも、肥満のリスクに差が出る結果となったのだ。
カーリング氏は「本研究では、母乳育児が肥満リスクを低減するとは証明できない」としながらも、「特に赤ちゃんの求めに応じて授乳をすることは、食欲コントロールの早期発達につながると考えられる。赤ちゃんは空腹・満腹の脳内信号に従って、母乳の摂取量を制御できるようになる」と分析している。
この研究によると、母親が若年齢、低学歴、低収入、妊娠時に母乳育児を計画していない、さらには、キャリアや仕事を非常に重視しているなどの場合、母乳育児期間が4カ月を切りやすかったとのこと。そして、これらの母親の授乳率を高めるには、幾重もの支援が必要だとしている。
肥満を防ぐメカニズムは未解明!?
日本でも岡山大学が2013年秋に、母乳と肥満の関係について研究結果を発表している。こちらは、厚生労働省が2001年から実施している「21世紀出生児縦断調査」に収集されたデータを用いて分析したものだ。
それによると、生後6~7カ月まで完全母乳で育った子どもは、粉ミルクだけで育った子どもよりも7歳の時点で太り過ぎになるリスクは15%、肥満になるリスクは45%も減少することがわかった。8歳の時点でも同様の結果となり、母乳育児が子どもの肥満予防に効果があるということが明らかになったという。
母乳育児については、乳児の抵抗力を上げて感染症を予防するなどさまざまな良い影響があることが知られている。一方で子どもの肥満を予防する効果については未だに世界的な議論が続いており、実はここ数年は「その効果はない」とする考えが主流になりつつあった。これらの研究成果は、その流れとは逆を行くものだ。
なぜ母乳育児が、乳児期を過ぎても子どもの肥満を抑制するのかについてはまだ解明されていないが、今回の結果を踏まえた場合、日本でも母乳育児をさらに推し進めていくべきであると研究グループはコメントしている。
忙しい現代の母親にとって、母乳育児は何かと大変なもの。しかし、生後数カ月の母乳によって子どもの肥満を防ぎ、長期にわたって糖尿病や心疾患のリスクを減らせるとなれば、よりポジティブに捉えられるのではないだろうか。さらなる研究解明に期待したい。
(文=編集部)