2014年最大の茶番劇、STAP細胞騒動をまとめる その1

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 小保方本人も理研の再現実験チームも、国内国外の第三者による10件以上の追試もすべてSTAP細胞もSTAP幹細胞もつくるのに失敗した。このことは「STAP細胞が存在しない」ということをテクニカルには意味している。「テクニカル(技術的に)」というのは、「分化した体細胞が初期化される」という理論的可能性までは否定できないからだ。アインシュタインの「特殊相対性理論」(1905)は光が重力により屈折することを予言していた。この予言の正しさは、皆既日食の際に、太陽の後に隠れているはずの彗星が見えることで実証された。
 
 ヴァカンティが提唱した「各臓器に初期化能力を持つ、小さな幹細胞が存在する」という理論は、誰かが実証しないかぎり、「銀から金ができる」という理論と同様に、消えて行く宿命にある。

 科学では事実を最も単純に説明できる理論を、反証が出ないかぎり正しいとしている。
 では「STAP細胞とSTAP幹細胞」を最も簡単に説明できる理論とは何か。

 第1は、STAP細胞は脾臓から取り出した細胞を1週間培養する間に、細胞がアポトーシス(自死)を起こし、自家蛍光を発するようになる。混在しているマクロファージがこれを食べ込むので、未熟な研究者が蛍光位相差顕微鏡で観察すると、「細胞塊が形成され、それがOCT4の特異蛍光を発しているように見えた」。これがSTAP細胞の本態。だから増殖能がなく、幹細胞になれない。

 第2は、「STAP幹細胞」なるものは、免疫遺伝子に再構成がなく、別種の細胞だということだ。小保方研究室の冷凍庫から、ES細胞株が入った箱が発見されており、これがすり替えによりSTAP幹細胞に仕立て上げられたとすると、すべて簡単に説明がつく。
 死ぬ細胞の自家蛍光を初期化遺伝子の発現徴候と誤認し、すり替えられたES細胞で細胞の増殖能力とキメラマウスへの分化能を主張する。

 トリックはきわめて簡単で、もし理研が「隠しカメラで小保方の実験を監視する」ということを公表していないか、本人に告げていなければ、小保方による「再現実験」は成功していたと思われる。いわば「高速ビデオで撮影する」と予告されて、インドの大魔術師が得意技を披露できないのと同じだろう。
 
 実際にSTAP細胞の実験が成功していたのなら、写真の加工や盗用や文章を他の論文やNIHのHPから大量にコピーする必要はまったくなかった。事実そのままを忠実に記載すれば、それで論文ができるはずだ。これらはストーリーそのものがフィクションだったから必要になった。
 
「ネット集合知」により、細部の不整合性や捏造、盗用が暴かれ、他者の追試と本人らの「再現実験」により、論文そのもの虚構性が確定したというのが事実経過だろう。

ヴァカンティの「妄想」にとりつかれた小保方

 だが問題は残る。事件はなぜ起きたのか?「和田心臓移植」事件や韓国の「ES幹細胞」事件、低温超伝導に関する「シェーン事件」などは、個人の異常な野心・名誉欲で説明がつくが、小保方の場合は彼女の「妄想」が大きな役割を果たしているように思われる。

 3/12付のメルマガに以下のように書いた。
 <生体の内部に三胚葉性の臓器ごとに「幹細胞」があり、それは芽胞様細胞の形態をしていて、各種のストレスに耐性である、というのはヴァカンティの「妄想」である。彼はひたすらその説を信じて、実験によりそれを証明してくれる「忠実な弟子」を必要としていた。生命科学の知識に乏しい小保方晴子は、まさに彼にとってうってつけの人物だった。
 
 ヴァカンティの妄説を信じた小保方が、帰国して理研にもぐり込み、巧みに周囲の指導的研究者をたぶらかして、自分の研究を信じこませた。そこから今回の喜劇が始まった。「SATP細胞」は小保方の妄想の中にしか存在していない。
 
 喜劇は終わった。みんないい加減に眼を覚ませ。>

 小保方の「発明・発見妄想」が、ヴァカンティとの関係の中で生まれたことは間違いないだろう。家族に臨床心理学の関係者が多いと報じられているが、これまでの人生で精神医学の専門家に接することはなかったのであろうか?早稲田や東京医大の基礎教室にそれを期待しても無理だが、理研にはそういう医者はいなかったのだろうか?

 まあともかく、年内に決着してよかった。「再生医療」を経済政策の一つの柱にするという、安倍内閣の計画は頓挫したけれど...。
 
(文=広島大学名誉教授・難波紘二)メルマガ『鹿鳴荘便り』(12/22)より抜粋

2014年最大の茶番劇、STAP細胞騒動をまとめる その2 はこちら

難波紘二(なんば・こうじ)

広島大学名誉教授。1941年、広島市生まれ。広島大学医学部大学院博士課程修了。呉共済病院で臨床病理科初代科長として勤務。NIH国際奨学生に選ばれ、米国NIHCancerCenterの病理部に2年間留学し血液病理学を研鑽。広島大学総合科学部教授となり、倫理学、生命倫理学へも研究の幅を広げ、現在、広島大学名誉教授。自宅に「鹿鳴荘病理研究所」を設立。2006年に起こった病気腎移植問題では、容認派として発言し注目される。著書に『歴史のなかの性―性倫理の歴史(改訂版)』(渓水社、1994)、『生と死のおきて 生命倫理の基本問題を考える』(渓水社、2001)、『覚悟としての死生学』(文春新書、2004)、『誰がアレクサンドロスを殺したのか?』(岩波書店、2007)などがある。広島大学総合科学部101冊の本プロジェクト編『大学新入生に薦める101冊の本』(岩波書店、2005)では、編集代表を務めた。

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