「虫から薬」をつくる時代がやってきた!カイコが製薬業界の救世主となる?

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【ビジネスジャーナル初出】(2014年9月)

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カイコが未来の薬をつくる。「Shutterstock」より

 「虫から薬」と聞くと、虫に菌類の胞子が付着することで冬は虫の形をしているものの夏になるとキノコが草のように生える漢方の冬虫夏草を思い浮かべてしまう。しかし、現代はまさに昆虫から薬を作り出すという時代を迎えつつある。なんだか漢方のように苦そうで口にするのもためらわれるが、開発が進んでいるのは、外科手術の際に使ったりするものなので、口に入れるのではないのでご安心を。

 薬を作るのに使われるのは遺伝子組み替えで作った特殊なカイコの幼虫。幼虫が吐き出す絹糸は「フィブロイン」と呼ばれる繊維状のタンパク質でできている。人工的に育種されたカイコは絹糸を作り出す絹糸腺と呼ばれる組織が巨大化しているので、遺伝子組換えができれば目的とするタンパク質を効率よく生産できるわけだ。2000年には独立行政法人農業生物資源研究所(茨城県つくば市)がカイコの遺伝子組換え技術の開発に成功、カイコの幼虫を生物工場として活用しようというアイデアが現実のものとなってきた。

 さらに同研究所は、08年にはオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質を利用してカイコから光るシルクを作り出すことに成功。14年8月には強くて切れにくいクモ糸の性質とシルクの性質を合わせもつ新しい"クモ糸シルク"を生産するカイコを作り出すことにも成功したと発表している。クモ糸シルクは通常のシルクの1.5倍の切れにくさを持ち、将来的には手術用縫合糸などの医療素材や防災ロープ、防護服などの特殊素材への応用が期待されている。

●がんを治療する抗体医薬品にも期待

 さて、肝心のカイコに薬を作らせる研究だが、すでに病気の診断薬や化粧品用のコラーゲンとして実用化されているほか、アルブミンやフィブリノゲンなどの血漿タンパク質の開発が進められている。
 
 ヒト型フィブリノゲンの開発にあたっているのがアステラス製薬と免疫生物研究所(本社・群馬県)。共同では医薬品への製品化を目指して研究中で、最近になって基礎的な研究段階から次の製造方法を検討する段階へと進展、2020年の製品化を目標に研究を続けるとしている。フィブリノゲンは血液の凝固に関わるタンパク質で、外科手術の際などに止血剤などとしても使われている。複雑な構造をしていることから人工的に作り出すことができず、現在ではヒト血液を原料に生産されている。
 
 こうした血漿タンパク質は生体内で抗原抗体反応に関わることから、がんを治療する抗体医薬品の生産にもカイコが期待されている。

 ヒトや動物など生物由来の医薬品は「生物学的製剤」と呼ばれ、かつて起こった非加熱の血液凝固因子によるHIV(エイズウイルス)や肝炎ウイルスの感染といった問題に代表されるようにリスクも伴うため、現在では安全性の高い遺伝子組換技術によって大腸菌などで生産する方向になっている。
 
 実は糖尿病治療薬のインスリンも、1922年に初めて投与された当時は動物の膵臓から抽出したものだったが、今では大腸菌や酵母菌などの遺伝子組換えによって作りだされているのだ。

 養蚕は紀元前15世紀ごろから始まったとされ、日本では1~2世紀ごろに始まり、1909年には生糸生産高が世界一になっている。その後は衰退の一途をたどり、今は中国やインドなどが主生産国だ。一連の研究で日本の養蚕の歴史に新しいページが加わりそうだ。
(文=チーム・ヘルスプレス)