会食人数の制限の根拠も全く意味不明
このような事情を知れば、政府の統計で「会食による感染」「家族間」「感染経路不明」が増えるのは当然である。統計自体が信頼出来ないのだ。
さらに「会食による感染」と分類されても、飲食店で感染したという保証はない。確かに「会食」がひとつのハブになっているとは言えるかもしれないが、その会食が、友人宅、実家、職場での食堂など、その可能性は様々である。場所まで細かく聞く規定はないのに「飲食店」が感染源と言いきることはできないはずだ。
さらに、会食の人数についてだが、二人だけで会食して感染してしまうケースもあれば、5人の会食でも、1人発症者、残り4人は陰性というケースもある。従って、会食の人数制限についても根拠が不明だ。
こうした現状の中で、飲食店に対する規制には、その実効性について疑問を抱かざるを得ない。現状のまま濃厚接触者を追う方法に固執すれば、感染は制御できない。抜本的な対策の変更が必要と思われる。クラスター対策の前提は、「市中で感染が蔓延していない」ことだ。私は「感染ありき」で考えるべきだと思う。
民間PCRセンターの活用と受け入れ医療機関の充実を
最近は民間PCRセンターが増えてきた。それをさらに拡充させ、保健所を介さず心配な時はすぐに検査ができるようにすればどうだろう。医師が必要と判断した時は公費で、それ以外は自費で行う。疫学調査は医療機関、高齢者施設など重症化しやすい人がいるところに絞る。すでに神奈川県では導入しているがそれを全国に拡大する。陽性者数についてマスコミは騒がないことだ。感染ありきで考えればわざわざニュース速報で取り上げる必要もない。
保健所業務の改善及び、陽性者への早期対応方法についても提案したい。検査を絞り、それでも保健所での検査が必要と判断した場合には、検査時点で、年齢、基礎疾患、肥満度、喫煙の有無等、国立感染症研究所が疫学的に知りたいと考えていることを、事前に問診票に記入してもらえばどうだろう。陽性となった場合、医療機関から保健所に発生届と問診票を送付してもらえばいい。問診票とその時点の体調をもとに、療養方法の調整を行うことができ、保健所の手間は大きく軽減される。
入院、宿泊療養は都道府県が調整しているが、それを近隣の自治体と協力して、近隣の自治体でも療養できるようなシステムを構築すればいい。その際、「感染を広げる恐れ」等とせせこましいことは言わない。「感染ありき」と考え、あくまでも「重症化させない、死なせない」ことに焦点を絞ればどうだろう。
保健所業務の一つに「健康観察」がある。陽性者への健康観察は電話で実施しているが(健康観察のアプリを導入したが、正確な健康状態がわからないため、結局電話による確認に戻した)、それも業務を圧迫している一つとなっている。その改善策として、市町村と連携して、自宅療養の健康観察は住民に身近な市町村の保健センターにお願いしてはどうか。
コロナで心配なことは突然症状が悪化することだ。陽性者及び濃厚接触者に対しては、既にほとんどの自治体が24時間電話相談できる体制を整えている。後は相談があったときにスムーズに受診できるよう受け入れる医療機関の拡充を図ることだ。政府は受け入れ病院を整備して欲しい。これは現場の保健師の力ではどうしようもない
今の政府と分科会は現状を全く理解していない。理解し難い現象に対し、現場の声や論文発表を参考にせず、それについて詳細を調べずに、わかりやすい「飲食店による感染」という理由に無理にこじつけて、あたかも「それが正しい答えに違いない」と思いこんで突っ走るようにしか思えない。
これは科学のやり方を無視した愚行であり、戦争へと突き進んでいった当時の日本と類似した格好である。挙句の果てには、看護学生も現場に駆り出すといった、学徒動員までも行い始めた。政府や厚労省は今の「クラスター対応」を早期に見直し、もっと現場の状況と科学的エビデンスを基にした政策をとっていくべきであろう。
(文=首都圏の保健所に勤務する保健師、匿名)
※医療バナンス学会発行「MRIC」2021年1月15日より転載(http://medg.jp/mt/)