今年の自殺急増はメディア報道の影響か? 元報道記者だった女医が振り返る

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予防できる自殺はある

 最後に、今後の報道のあり方について自殺予防の観点から考えてみたいと思います。

 過剰な自殺報道は「ウェルテル効果」があるとされる一方で、責任ある自殺報道は、人々への自殺および自殺対策に関する教育に役立たせたり、自殺のリスクがある人に別の行動を促したり、隠すことなく希望をもって対話をする気持ちにさせたりする可能性があるとされています。自殺のメディア報道に、「いのちの電話」をはじめ、どこに助けを求めるべきかという情報が含まれている理由の一つはそこにあるでしょう。

 メディアの責任ある自殺報道によって、自殺を予防する効果はモーツァルトのオペラ『魔笛』のパパゲーノという登場人物に由来して「パパゲーノ効果」と呼ばれています。

 ところで、自殺者のうち9割近くは、うつ病などをはじめ何らかの精神疾患を抱えた状態であることは意外と知られていない事実です。一方でこの事実は、自殺はやむを得ない、防げないものではなく、原因となる精神疾患を適切な治療によって治療すれば自殺を防げる可能性があることを示しています。

 もちろん、自殺は一つの原因だけで起こるものではなく、この他にも様々な要因が組み合わさって起こりますが、もしどこかのタイミングで他者からの支援や適切なケアが入れば、自殺を予防することができます。そして、それには周囲の理解を広げ、必要な休息期間を得たり、必要な支援や治療につなげるという意味でも、一般人のメンタルヘルスリテラシーの向上が重要となります。

 今年は、自殺報道のあり方について大きな課題を見つけた一年でしたが、今後も自殺報道を腫れ物を扱うようにするのではなく、今回のことをしっかりとデーターを分析し、専門家やメディア関係者などの間で議論を深め、今後より良い報道のあり方へと改善する中で、自殺報道による負の社会的影響をなくすだけでなく、一般人へのメンタルヘルスに対するリテラシーの向上に結びつくような報道に繋がることを願っています。

※自殺予防いのちの電話:0120-83-556
※よりそいホットライン:0120-279-338

※参考文献
Bollen KA, Phillips DP. Imitative suicides: a national study of the effects of television news stories. Am Sociol Rev. 1982 Dec;47(6):802-9.
Phillips DP, Carstensen LL. Clustering of teenage suicides after television news stories about suicide. N Engl J Med. 1986 Sep 11;315(11):685-9.
Fu KW, Yip PS. Long-term impact of celebrity suicide on suicidal ideation: results from a population-based study. J Epidemiol Community Health. 2007 Jun;61(6):540-6.
Etzersdorfer E, Voracek M, Sonneck G. A dose-response relationship between imitational suicides and newspaper distribution. Arch Suicide Res. 2004;8(2):137-45.
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R02/R01_jisatuno_joukyou.pdf
(文=佐藤知世)

佐藤知世
札幌医科大学大学院博士課程2年生。
佐賀県嬉野市生まれ。愛媛県新居浜市育ち。九州大学法学部卒業後、福岡のテレビ局で報道記者兼アナウンサーとして地域のニュースに携わる。その後、主婦をしながら医学部に入学。現在、札幌医科大学附属病院研修医2年目。2児の母。

※医療バナンス学会発行「MRIC」2020年12月28日より転載(http://medg.jp/mt/)

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